皇女と主人公は以心伝心
「……………………………」
アミィールは、自室で空を見ていた。
………………わたくしは、セオドア様と結婚出来る。嬉しい、嬉しいの…………だけど、怖い。
セオドア様が変わってしまわれるのではないか。
傷つけられてしまうのではないか。
……………………心の優しいセオドア様が、セオドア様じゃなくなるのが、途方もなく怖い。
身体が、震えた。
わたくしは、龍神の血を受け継いでいる。
それを理由に、何度も攫われかけたことがある。その度に両親、両親の仲間達、妖精神、精霊達が守ってくれた。
わたくしは弱いままでは居られなかった。……………弱ければ、攫われてしまう。殺されてしまう。
そうなったら_____わたくしが生まれた時、喜んでくれたお父様、お母様、フラン様、ダーインスレイヴ、ガロ、リーブ、クリスティド国王陛下、エリアス女王陛下、妖精神、精霊、国民達、従者達、…………………皆様が悲しまれる。
それはダメだ。嫌だ。
そう思って、生きてきた。
だから穢れた血が憎くて、嫌だった。
そんな気持ちに、愛おしい人がなってしまったら?____怖い。
わたくし、怖い。セオドア様に会いたい。
セオドア様______
そう思った時、コンコン、とノック音が響いた。…………?エンダーかしら?
頑張って震えを抑えて『どうぞ』と言った。扉が開くと___愛おしい御方が居て。
「……………セオ様…………」
「アミィ……………ッ!」
「きゃっ」
セオドア様は、わたくしを見るなり、走るようにわたくしの元に来て抱きしめてくださった。震えていた身体にじんわりと染み渡るように体温が伝わっていく。息が荒くて、耳が擽ったい。
けれど、どうして?セオドア様はわたくしの部屋にいらっしゃったことがないのに……………「ごめん」………?
セオドアは、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
「アミィの気持ちも考えず、浮かれて、…………1番大切な事を忘れていた。……アミィを傷つけないという約束を………誓いを……破った。
ごめん、ごめん……………」
セオドア様は、沢山謝ってくださった。わたくしの顔に、セオドア様の涙が落ちる。
___嗚呼、わたくしの知っているセオドア様だ。
わたくしが恋焦がれ、深く愛している、優しくて内向的で…………か弱い御方。
わたくしは、馬鹿だ。
セオドア様を疑うなんて_____馬鹿すぎる。
「………………………セオ様、謝らないでくださいまし」
アミィールは背伸びをして、セオドアの涙を舐めとった。けど、代わりに自分が涙を流していた。それでも、笑顔で言う。
「_____セオ様は、サクリファイス大帝国の者になるのです。簡単に謝らないでください。
わたくしは___どんなセオ様でも、愛し続けますから………………」
そう言って、セオドア様の頬に両手を置く。
群青色の髪、エメラルドのような綺麗な緑色の瞳、子犬のようなお顔。
_____愛おしい。
アミィールは、唇を重ねた。
セオドアはそれを受けて、アミィールを抱き締める。きつく、それでも優しく。
紅銀の長い、サラサラとした髪、いつも俺の顔を映し出してくれる黄金色の瞳、……………全部全部、俺の大好きな人。
俺は、もう失敗しない。
____もう、この美しくて男気があって強くて…………それでも、"女"であるこの人を離さない。
俺は_____どんなに強い力を持っても、この人だけを愛し続ける。
______この人を守ろう。
2人は甘く、塩っぱく、酸っぱいキスをしながら____同じ事を考えたのだった。




