"スイーツ皇子"
セオドア様のお菓子作りは凄い。
味はもちろんだけれど、見た目や包装、目で見るだけでも心が踊るような可愛いお菓子を手際よく作ってしまわれる。それを見ていたらお菓子の山に埋まっていた。
セオドア様のお菓子ならいくらでも食べられる自信があったのだけれど、流石に全て食べたら1年はお腹が空かない気がする。
「す、すみませんアミィール様……………」
そう言ってしゅんと子犬のように項垂れるセオドア様が愛らしい。こういう純真な所も大好きすぎます…………!
「大丈夫ですわ、セオ様。なので、敬語はやめてくださいまし。
2人で毎日食べればだいじょ_「それはさせないわよ!」_…………お母様」
励まそうとした言葉は遮られた。もう存在だけでもうるさい母親で皇妃・アルティアである。
アルティアは手を前で組みながら目を輝かせている。
「こぉんな美味しそうなお菓子を2人で食べるなんてずるいわ!セオドアくん、私も食べていい!?」
「そ、それは勿論…………しかし、男手ですし…………」
「お母様、これはセオドア様がわたくしに作ってくださったもの。それを横から取るような行為は恥ずべきことですよ」
「あー、セオドアくんに許可もらったしアンタの嫉妬もどうでもいいわ、私はこのお菓子を…………っ、うま~!なにこれ、うま!パルミエがサックサク~!」
お母様はわたくしの言葉も聞かずに食べて騒いでいる。セオドア様は目を伏せて嬉しそうに顔を赤らめている。…………ちょっとモヤモヤするけれど、わたくしだけが美味しいと思っているわけではない事がこれで証明されたし、何よりセオドア様が嬉しいなら___「こんな美味しいお菓子、尚更2人で食べるなんて許さないわ!よっしゃ、お裾分けしまくるわ~!」……………は?
「なっ……………」
お母様は空中に黒渦_お母様の秘術で物を持ち歩く入れ物のようなもの_にお菓子を詰め込んだ。そして、にっこり笑う。
「伝達魔法・"私の話を聞け"」
「!」
アルティアがそう言うと、部屋…………いや、城中に魔法陣が敷かれた。
これは城内中の兵士や従者に声を届けるお母様の秘術だ。お母様は口を開く。
【「これを聞いている者は、全員庭に出なさい。わたくしの可愛い娘婿殿からのプレゼントを渡すわ」】
「ちょっと!お母様!」
「よし、これでおっけー!アンタらもついてきなさい。面白いものが見れるわよ」
そう言ってお母様は笑った。
* * *
「ほーーーーら受け取れーーーーー!」
「…………………」
「…………………」
アルティア皇妃に連れられて、城の屋根に来た。落ちそうになるのをアミィール様に支えてもらいながらとんでもないものを見ている。
アルティア皇妃が、庭に向かって俺が作ったお菓子を投げているのだ。ご丁寧に浮遊魔法を掛けて。眼下では集まった人間たちが我先にと手を伸ばしている。
「美味しい……………!シェフが作ったのかしら!?」
「いや!この味は私達でも作れない!」
「婿様って、セオドア様ですわよね!?素晴らしいですわ!」
下からたくさんのお褒めの言葉を貰えて、嬉しいけど恥ずかしい。というかアルティア皇妃がアミィール様に輪をかけて破天荒すぎる。
「ハッハッハーーーーーっ!人がゴミのようだーーーーーーー!」
……………そう美しい顔を歪めて叫ぶアルティア皇妃は絶対日本人だと思うけど、同じ日本人には思えなかったのはここだけの話。
また、この日からセオドアは"スイーツ皇子"と呼ばれるようになったのだった。