Let's Making Sweets !
「…………ッ……ッ」
セオドア様が滝のように涙を流して目を輝かせている。声すら出ないようだ。
でもちょっと大袈裟ではないか?とアミィールは思った。
あの手この手とあのうんち皇帝と交渉してやっと休みを手に入れたのには理由があった。たくさんの執務を請け負ったのもタダで、ではない。あるひとつの条件を出していたのだ。………まだセオドア様と婚約したばかりだったけれど、気が逸ってしまって作っていただいたのだ。
この______セオドア様専用のキッチンを。
アミィールはキッチンを見た。群青色と緑を基調とし、装飾に黄金色を使った薔薇。
セオドア様はお菓子作りが好きだと言っていたし、わたくしも食して美味しいと思ったのだ。その趣味を我慢せずに存分に行って欲しかったのだ。そしてそれをわたくしが食べる。…………要は自分のためである。
でも、このような反応をされるとは思わなかった。もしかしたら、気に入らないところがあるのかもしれない。
「あの、セオ様、遠慮なく改善して欲しい点を言っていただければ…………」
「いやいやいやいや!十分すぎだよ!というか!俺専用のキッチンって!?そんなものを貰うなんて心苦しい!でもこんなに嬉しすぎてあれもこれもと気になって……………はっ!」
セオドア様はそこまで仰って手で口を覆う。でも、真っ赤な頬は隠れていない。…………俺、って言ったし敬語もなかった。どうやら、喜んでくれているらしい。
3ヶ月も共にしていたらわかる。セオドア様はとても内向的で控えめだけれど、それは意識してそうしているだけで、気が抜けるとぽろり、と口調を崩すのだ。それがいやらしいものではなくて……作ってよかった、やってよかった、って思えるのだ。
アミィールは顔を綻ばせながらそんなセオドアに言う。
「いいのです。わたくしがセオ様のお菓子を食べたくて作ったのですから、どうか受け取っていただければ嬉しいです」
「ッ……私は本当に幸せ者だ……今日死ぬのかもしれない……」
「死なないようにわたくしがお守りしますわ。暗殺者は血祭りでございます」
「………やはり死なないからアミィ、物騒なことは言わないでおくれ」
「?」
大真面目に血祭りと言ったアミィールに若干引いてしまったセオドアでした。
* * *
楽しい。
すごく楽しい。
セオドアはそれはもう上機嫌に手を動かしていた。
アミィール様がわざわざ休みを取って連れてきてくれた場所は、庭園に近い一室だった。そこはなんと俺専用に作ってくれたキッチンで。それだけでも嬉しいのに、調理器具まで豊富、チョコやバターは勿論、ヴァリアースの果物や中々手に入らない細かく可愛い食べれる装飾まであった。お菓子作りをする為に作られているけれど、普通に料理も出来そうな勢いで定番から痒いところに手が届くような代物が盛りだくさんだ。
そして。
アミィール様は目の前で作って欲しいと言ってくれた。ここ3ヶ月、お菓子を作ることがなかったからテンションは最高潮である。作りたいものから、作りたかったけど材料や機材の関係で作れなかったものまで作り放題で。
「よし、ワッフル完成。次は……「あの、セオ様……」……?どうした?……あ」
呼ばれて、アミィール様の方を向くと_____山のように積まれたお菓子。アミィール様のお顔すら見えないほど様々なものが積まれている………って!
「も、申し訳ございません!作りすぎました!アミィール様、窒息してませんか!?」
「ち、窒息はしてないですけれど……凄いですね、お菓子の山は初めて見ました………」
そう言って誤魔化すように頬をかきながらお菓子の山から離れるアミィール様。
や、やってしまった………テンションが昂りすぎてお菓子作りスキルが爆発してしまった………