"母の日"の花
「アミィから聞いていたけれど、本当に花を育てるのが好きなのね」
「す、すみません、…………貴族で男だと言うのに、花など…………」
「あら、そんなことないわ」
アルティア皇妃はそう言って俺を見上げた。…………ここから見ると、やっぱりアミィール様によく似ている。アミィール様と殆ど同じ顔で、同じように優しい笑みを浮かべていた。
「花を愛でる男がいてもいいじゃない。好きな事を幸せそうに出来ることは素晴らしいことよ。
…………それに、何かを育てるというのはとても素敵なこと。
何かの命を担う事に幸せを感じることは、それだけ貴方の心が綺麗だということ。
誇りなさい」
「……………ッ」
とても優しい言葉だった。責められると思っていたのに。俺の心を綺麗だというアルティア皇妃こそ綺麗だと思う。
やっぱり、アミィール様はこの人の子供なんだな、と実感する。この人に育てられたからこそ、アミィール様はとてもお優しいんだ。
感動に近い思いを抱いていると、アルティア皇妃は『どんな花が咲くのかしら』ととても上機嫌で言ってから『そうだわ!』と手を叩いた。
「ねえ、セオドアくん、このお花、もう咲かせてもいいかしら?」
「え?でも………それはヴァリアースの花でちゃんと咲くかわからないですし、咲くのは2ヶ月先ですが…………?」
「うん、でも、早くみたいなぁって。別の花壇もあげるから、お願い!」
このとおり!と手を合わせる皇妃様。本当に子供らしい人だ。………ここまでお願いされてダメと言うのは不敬だけれど…………そんなことできるのかな?
「そ、それは構いませんが………」
「やった!じゃあ失礼して……………!
応用魔法・植物成長」
アルティア皇妃はそう言って緑と薄茶、水色の魔力を腕に纏い、土に触れる。するとカーネーションがメキメキと育っていき、立派な花を____って、
「は!?」
目の前で起きた非現実な光景に思わず大きな声が出た。急いで口を手で覆ったけど、開いた口は塞がらない。花が勝手に咲き誇った……………!?
アルティア皇妃はわあ、と声を漏らして赤いカーネーションに触れる。
「綺麗な花~!この花、なんて言うの?」
「か、カーネーション、ですが………」
「これが噂のカーネーションか!母の日に送るヤツ!」
「そうで………………え」
さらり、とアルティア皇妃が言った言葉に耳を疑った。…………この世界には、母の日はない。それどころか季節の別れ方は前世で住んでいた日本と違って1月、2月、というのではなく、春、夏、と大まかなものだ。
なのに、この御方は…………?
「あ、あの」
「ん?なあに?」
「何故、母の日を知っておられるのですか……?それは、それは日本の……!」
「………………!貴方、日本を知っているの!?」
「あ」
思わず日本、と言ってしまった。ゲームの世界を壊してはならないと思い隠していたのに…………でも、アルティア皇妃は物凄く動揺した。すくりと立ち上がり、詰め寄ってきた。
「もしかして、セオドアくん、貴方__「セオ様!」
アルティア皇妃の声を、愛おしい声が遮った。それと同時に、愛おしい人___アミィール様が、俺とアルティア皇妃の間に割って入った。
「____お母様、わたくしのセオ様になんの御用でしょうか?要件ならわたくしがお聞きしますけど?何故貴方が出歩いてるんですか?公務はどうしたのですか?」
「………そんなに睨まないでよ。お茶会の場所を探している時にたまたまセオドアくんと会ったからほんの少しお話しただけ。これも公務でしょうに。
アンタこそ、仕事はどうしたのよ」
「わたくしはお母様と違ってちゃんと終わらせてきました」
アミィール様は怒っていらっしゃる。………こう見えてとても嫉妬深い御方なのである。それはアルティア皇妃も重々承知らしく、なにか言いたげにしてからはあ、と溜息をついた。