皇妃の叱責
アミィールと子供達は上着を着た。温かい格好をして、部屋を出ようと___「あら」………!
ドアノブに触れる前に、扉が開いた。
そこには____黒の長髪、黒のドレス、黄金の瞳の自分と同じ顔の母親であり、このサクリファイス大帝国の皇妃であるアルティア=ワールド=サクリファイスの姿があった。
アルティアははあ、と溜息をつく。
「いやね~、セオくんったら浮かれてちゃんと確認しなかったわね?まったく……」
「………お母様、何故ここにいらっしゃっているのですか。この夜更けに」
「それは~まあ、用事があるからよ」
「ダーインスレイヴ」
アミィールはそう呟く。すると青紫色の魔剣が現れた。アミィールはそれを手に取り、実の母親に向ける。
「____正直に答えてくださいまし。
セオ様はどこですか。あなたは何故ここにいるのですか。どうかわたくしの納得出来る弁明をお聞かせ下さいまし」
「____怖いわね。勘違い、思い上がり、蒙昧………そんなに浅はかな子だったかしら、貴方は」
「ッ、そんなことはどうでもいいのですッ!」
「セラ、俺たちもたたかうぞ」
「アド、わたくしは遠距離から行います」
子供達も臨戦態勢を取り始めた。アルティアはそれを見て『馬鹿家族だねえ』と呑気に言って頭をかいた。
「まあ、いいや。………じゃあついてきなさいよ」
「ついてくる?………どこに、ですか」
「___セオくんの、居るところ」
「____!」
アルティアはそれだけ言って、カツ、カツとヒールを鳴らして歩き出した。わたくしは剣を消して、子供達を抱き上げ、追いかけた。
* * *
「……………どこに向かうのですか」
アミィールは子供達を抱きながら、怪訝な瞳でアルティアの背中を睨む。アルティアは相変わらずあっけらかんとした声で言った。
「禁書庫よ」
「禁書庫?そんな場所で何をしているのですか」
禁書庫___サクリファイス大帝国の知識の宝庫。とはいえ、それは形だけで『嘘だらけの文献』ばかりが放置されている無用の長物だ。
「禁書庫自体に興味があるわけじゃないわよ。_____正確には、ワールドエンドにいる」
「_____は?」
アミィールは思わず声を漏らす。
ワールドエンド。幻の島で、元サクリファイス大帝国があった異空間である。そこには呪いの元凶である人柱が乱列していると聞いた。アンデッドの住処だとも聞いた。…………でも、実際には行ったことがない。だってそこは妖精神の屈服印を持つお母様とお母様の契約者であるお父様が力を合わせなければ行けない場所…………
そこまで考えが至って、アミィールは激昂した。
「そんな危険なところに、なぜセオ様がいるのです!貴方が唆したのですかッ!?」
「違うわよ。…………本人が行きたがったの」
「何を…………!」
禁書庫に着いた。黒い異空間の入口の前にわたくしの侍女のエンダーが立っていた。
アミィールはエンダーを睨む。
「____あなた、知っていたのですか」
「……………申し訳ございません、アミィール様」
「謝って許されると思っているの?わたくしも舐められたものね。いいでしょう。消滅を__ッ」
話終わる前に、母親がわたくしの身体を思い切り引っ張り、異空間の壁に叩きつけた。子供達は自分から降り、震えている。………わたくしも、震えた。
お母様が____怒っているから。
「……………アンタ、なんにも分かってないわ………………
セオくんの決意を、エンダーという忠臣を、…………なにも、何も分かっていない!」
「ッ」
「あんたは7年もセオくんの何を見てきた!?あの子はなにも考えてないと思った!?あんたを、あんたを愛して、馬鹿みたいな『希望』に命をかけて!立ち向かっているあの子の決意を!
ずっとあんたのそばにいて!あんたを見守ってきたエンダーの心を!
アンタはなんでわかんないんだっ!バカ娘!」
「……お母様……」