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取り乱す皇女

 




 「セオ様…………ッ!」



 ダーインスレイヴが去った後、アミィールはすぐさま愛おしい夫の顔を両手で包んだ。熱い、熱すぎる。熱?病気?不治の病?



 錯乱するアミィール。しかし、この戸惑いも当然だった。夫___セオドアは6年共にしてきたけれど、熱どころか風邪ひとつ引かない強い人だった。手洗いうがい、鼻うがい、除菌から何から『そこまで?』と思うほど徹底的に風邪予防をする。理由を聞くと、『アミィや子供たちに風邪を移したくないから』と可愛い笑顔で言っていた。



 なのに、こんなにも今顔が熱いのだ。息遣いも荒い。それだけでわたくしも苦しくなる。涙も出る。やだ、やだ…………セオドア様が居なくなるのは嫌っ!





 「んん、………ママ?」



 「ふぁ~、おっはあ母ちゃん」



 「セラ、アド…………」




 子供達が起きてきてしまった。

 乱れた紅銀の髪、黄金と緑の瞳の娘、セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。

 同じく乱れた群青色の髪、紅と黄金の瞳の息子、アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイスだ。


 2人は双子で、3歳である。

 その2人は目を擦りながら近づいてくる。



 「朝からひどいお顔~どうし………って、父ちゃん?」



 「おかお、真っ赤だよ………?」



 「…………ッ」



 子供たちに不安が広がる。…………だめ、わたくしがここで狼狽したら、子供達が泣いてしまう。


 アミィールはそう思うとすぐさま涙を拭いて、無理に笑顔を作る。



 「パパは、大丈夫ですわ。2人とも、いい子なので…………ッ」



 「ママッ!」


 「母ちゃんッ!」



 胸に代償の痛みを感じて抑え込む。………今は、だめ。ダメなの。耐えなさいわたくし。わたくしまで倒れては、セオドア様も子供たちも悲しんでしまわれる。食いしばれ、………!



 アミィールは胸を抑えながら、再び顔を上げた。




 「だ、いじょうぶ、………パパは、寝ているだけですわ…………ですので、アド、セラ、少しの間だけ、遊んでいてくださいまし」



 「…………ッ、わたくし、あそばない!」


 「俺もだ!父ちゃん!起きろよ!」




 子供達なりに何かを察したのか走って父親に近づく。そして、揺らした。何度も何度も揺らしているけれど、父親は荒い息遣いしか聞かせてくれない。いつもの優しい声も、怒る声も出さなくて、2人はとうとう泣き出した。



 「ひっく、パパぁ、起きてよォ…………」



 「父ちゃん!なあ!俺、お尻出すぞ!ぞうさんも出すぞ!裸になってやるぞ!


 怒ってよ!起きて怒ってよ……!」




 「ッ、セラ、アド………ッ!」




 アミィールはとうとう再び涙を流しながら2人を抱き締めた。家族が泣いている中、医者が部屋に来て___診察が始まった。




 * * *





 「……………過労」




 医者が居なくなった後、アミィールはぽつり、呟いた。診断は『過労による発熱』だった。命に別状はなく、しっかり休むことが大事だと言われ、薬を処方された。


 わたくしも、お父様とお母様に頼み込んで、休みを貰った。愛する御方が倒れて仕事ができるほど、わたくしは大人じゃないようです。



 子供達も、どんなに言っても、『パパが起きるまで離れない』とベッドの反対側にしがみつき、じっ、とセオドア様を見ています。あの自由奔放なアドラオテルまで泣くとは思っていなくて………セオドア様がどれだけ愛されているのか、思い知らされました。



 ____セオ様、お願い致します。



 ____起きてくださいまし。



 ____『おはよう』と笑ってくださいまし。



 どうか、どうか。



 いつものように様々なお顔を見せてくださいまし_____








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