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夏は乙女的に外せない案件

 




 _____毎年、『夏』という季節は何かあるんだ。

 婚約した年は、『治癒血』が発現し、結婚した時は『女装』、子供達がお腹にいるとわかったのも夏、プールを作ったのは去年の夏だ。



 そんな熱い季節が、また来る。





 * * *








 「夏っぽいことがしたいです」



 群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは頭に大きなリボンを乗せ、フリフリのピンクのドレスを着ながらそう呟いた。



 彼はギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公に転生したが攻略対象キャラと恋愛せず、モブ扱いだったハイスペック皇女と結婚、子宝にも恵まれた乙女男子である。




 目の前には、黒の長髪、黄金色の瞳の美女、サクリファイス大帝国皇妃であり義母のアルティア=ワールド=サクリファイス、黒と白のごまプリン頭のツインテールのセイレーン皇国の皇女であり聖女、フラン・ダリ・ジュエルズ・セイレーンと、可愛い顔をしながらも男子の服装をしたセオドアの娘、セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイスがいる。




 アルティアはワインを片手に感心した。



 「もうすっかり女装がデフォになったわね。現実を受け入れられたの?」


 「どんな手を使っても貴方から逃げられないと悟ったのです。私は成長しました。褒めてください」



 「顔が赤くならないのつまらないな~、次はヌードとかやってみる?」




 「それはもはや女装じゃなくて変態じゃないですか」



 「ぱぱ、へんたい?」



 「パパは被害者だよ、セラ」




 もう涙すら出ない。枯れ果てたよ。逃げ出すくらいなら自分からドレスを作って露出が少ない物を着て頭にリボン乗せるくらい怖くなくなりましたよええ。大人になりました。逃げようがなにしようがこの悪ノリな大人達が地の果てまで追ってくるので。



 ラッキーなのはエリアス女王陛下までいないことだ。あの人がいたら俺の顔はぺたぺたと化粧を塗られていたことだろう。これに感謝するくらいには男のプライドがなくなった。この世界は理不尽なんだ。


 それはともかく、だ。




 「夏っぽいことがしたいです」



 「うわ、2回言った。プールがあるじゃない。昨日もスイカ割りをしたでしょう?」



 「結局みんな透視を使ってパカパカ割ってたじゃないですか。私がどれだけスイカスイーツを作ったと思います?忘れたとは言わせませんよ」



 セオドアはそう言って机を指さす。

 スイカシャーベット、スイカゼリー、スイカヨーグルト、スイカスムージー………セラが飲んでいるジュースもスイカジュースだ。晩御飯もスイカだったんだ。身体中がスイカに塗れている。お腹を当然降した。今回フラン様が来てくれたのは僥倖である。この機会にお土産にもスイカを渡してスイカを消化したい。




 「でも、夏っぽい事ね~、ここは異世界だし、夏っていう季節も曖昧だから、難しいわよね~。


 何かある?やりたいなら意見を出しなさいよ」



 「う、…………」




 セオドアは怯む。

 珍しく正論だ。何をしたいかと言われるとそれが分からなくて聞いていたんだ。他人任せである。考え、動くというサクリファイス大帝国国民としては失格だ。



 夏のイベント、夏のイベント………

 俺は必死に前世の記憶を思い出す。プールは入った、スイカ割りもやった、海、……は距離的に無理、山?山も無理だな。川遊びはもっと無理だ。バーベキュー?………やってもいいけど、そういうことじゃなくて、せっかくやるなら皇族だけが楽しめるものではなくみんなで楽しめるものがしたい。少女漫画の夏のイベントといえば…………



 「…………花火、大会?」










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