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王子の役を俺にやらせて

 





 「…………セオ様、わたくし達は_____!」



 アミィール様は口をゆっくり動かしている。言うのを何度も何度も躊躇するように。

 それを見て俺はすかさずフライを唱えた。忌まわしき白い大翼が背中に生まれる。



 ____この翼が、この血が、全て忌まわしい。

 この忌まわしいもので___俺とアミィール様の愛を穢したくなかった。



 俺は直ぐに飛んでアミィール様を抱き寄せた。手を引いて、宙に浮いた。逃げられないようにがっちりホールドして、大翼を羽ばたかせながら月の目の前に来た。



 涙に濡れた黄金色の瞳、赤い鼻先、唇を噛みすぎて滴っているアミィール様の『穢れた血』。


 そのどれもこれもが、俺の愛おしい御方なのだ。こんなに愛らしい御方が他にいるか。



 セオドアは、未だに言葉を発するのに躊躇している唇に、自分の唇を押し付けた。アミィール様は何度も俺の胸を押した。離れようと試みている。




 ____そんなの、させない。

 自分がここまでアミィール様に厳しくできると思ってなかった。


 それぐらい、この人と離れることを拒んだんだ。大天使?そんなの辞めてやる。龍神?そんなの知らない。



 俺が、俺が好きなのは、アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスではない。



 ただのアミィールなのだ。



 文武両道、品行方正、才色兼備、他人を思いやれる優しい御心。これらは勿論大好きなところ。


 でも、本当はか弱くて、意地っ張りで、怒りっぽくて、我儘で、思い込みが激しくて、人に頼るのが苦手な___そんな彼女も好きなのだ。



 アミィールを形成する全てが愛おしいんだ。

 俺にはアミィールのいない世界など考えられない。アミィールがいないのなら死んでいるのと同じ。


 だから。



 セオドアは、唇を離した。銀の糸を引いて、涙だけではなく唾液さえも舐めとって、未だに眉を下げる愛おしい女に、言った。




 「______俺は、アミィが拒んでも、傍に居続ける」



 「____!


 セオ様、しかし、貴方は……」



 「俺は大天使じゃない。大天使が清らかな心の持ち主だと言うのなら、いくらでも染まってやる。欲に塗れてやる。貴方と共にいる為には黒く染まらねばならないというのであれば___黒に染まるのも厭わない。



 アミィを愛す為なら喜んで堕天使になろう。


 だから___頼むから、今俺に言おうとしている言葉を、絶対、絶対に言わないでくれ」



 セオドアはそう言って強く抱き締めた。空を飛びながら、2人の男女は密着する。女は目を見開いて____再び涙を流した。




 「____セオ様は、ずるいです」



 「____知っている」



 「_____わたくしの心を読めるのですか?」



 「____アミィだって俺の心を読めるだろう?」



 「____ねえ、セオ様………いいえ、セオ。


 わたくしは___なんのしがらみもなく、貴方を愛したいです」





 「____俺達に、なんのしがらみもない。




 今も、これからも。そんなものは必要ない。俺とアミィはただ愛し合っているだけ。そこに龍神とか大天使とか関係ない。要らない。理由なんて捨ててしまおう。



 アミィ、_____アミィール。



 俺と、一緒にこれからも歩んでくれないか?」



 セオドアはそう言ってアミィールの顎を持って、自分の方を向かせる。アミィールの瞳には、もう涙はない。あるのは月明かりに照らされた美しい、それでいてか弱い女の顔。



 「____ええ。セオ。


 貴方と共に、これからを____歩みたいです」




 セオドアはそれを聞いて、アミィールに再び唇を重ねた。



 ____少女漫画の一コマ。

 いつも俺ばかりされていた。

 けど、今は、今だけは。



 その役を譲れない。譲りたくない。



 離れるなんて、言わせない。

 そのためだったら____いくらでも乙女男子な俺は『王子』になって。


 男前なアミィールには『姫』になってもらう。



 あべこべだった関係に不満はないけれど。

 それでも、俺はやっぱりこの人の『王子』でありたいんだ____。





 2人は月明かりに照らされながら、長く、長く唇を重ねていたのだった。









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