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揺れる皇女

 





 アミィールは目を伏せて、震える。

 スカイはそれを見ながら静かに言う。



『____アルティアには前から言っていたんだ。ファーマメント王国のオーファン家かもしれない、と。


 あの適当な女は真に受けてなかったけれど。それはともかく。



 我がこの妖精神という座に就いて5万年_____何人か、同じような力を持った大天使は、居た。


 しかし…………話を聞いている限りセオドアの場合はその歴代よりもさらに強い治癒の力を宿している』




 「____ッ」




 アミィールの美しい顔が歪む。

 サクリファイス大帝国で保護している。傍に自分がいる。自分だけではなく『最強生物』と『世界で1番有力者』もいる。なのに。それでも…………不安なのだ。



 愛する御方は優しすぎる。何かあればその力を惜しみなく使うだろう。それを知られては____争いの種になる。



 愛おしい御方が原因で戦争が起きるのは心底嫌だ。………そして、わたくしもそうなったら再び剣を握るだろう。子供達など抱けないくらい血にまみれるだろう。



 そこまで想像して____悲しくなった。



 「その血は…………その力は、無くすことができないのでしょうか………?」




『無くせないさ。あの血はセオドアの身体が、魂が作り出すもの。力をなくした時___セオドアは崩壊しているだろう』



 「ッ、う…………」




 とうとう、アミィールの瞳から涙が零れた。スカイは更に絶望を与えるようなことを述べる。



 「その力は___娘に、受け継がれてしまったようだ」



 「…………!セラにその血が………?」




 スカイは小さく頷いた。そして、静かに、諭すように言う。



『そうだ。…………契約をした時、感じた。オーファン家の血を、その中でも特殊な血…………色濃い"大天使の血"が………娘には宿っている。その血はいまこそ父親に劣るが………歳を追えば強力なものになるだろう』



 「そんなっ………では……そんなの、あんまりじゃないですかっ………」



『しかし、悪いことばかりじゃない。……………その血があるおかげで、お前の血脈の代償の回数は減るだろう。どうしても昂ってしまったり、呪いの効果が発現しない限りはまず無事だと言ってもいい』





 それのどこが無事なのですかっ!と叫びたかった。つまり、セラフィールが発作を起こすということは死ぬほど辛い時だけになる。そうなれば___死んでしまう可能性だって。



 「ッ、いや………いやよ、そんなの、いやだ…………!


 何故、なぜ…………!」



 アミィールはとうとう泣き崩れた。譫言のように『何故』を繰り返し、啜り泣く。



 _____わたくしは、ただセオドア様を愛しているだけなのに。


 _____わたくしは、ただ子供達と幸せに生きたいだけなのに。


 なぜ、何故ですか。


 何故セオドア様は大天使なのですか。

 何故セオドア様はその中でも色濃く血を受け継いだのですか。


 何故わたくしはセオドアに出会ってしまったのですか。

 何故わたくしはセオドア様を愛してしまったのですか。



 _____神、貴方を恨みます。



 幸せな分、楽しい分、嬉しい分。


 それと同じくらい、いや、それ以上に貴方を心の底から軽蔑します。



 わたくしとセオドア様をどうして出会わせたのですか。

 わたくしが『穢れた血』の持ち主で、セオドア様は『清らかな血』の持ち主で。



 この出会いを運命だと?ふざけないで!

 わたくしのような醜い女ではなくあの御方に相応しい綺麗な、美しい女はごまんと居たでしょう。


 何故あの御方にばかり辛い思いをさせるのですか。…………何故あの御方はこれを知ってもなお、わたくしを愛してくれるのですか。


 なぜ、わたくしはそこまで知っていて____彼から、離れることができないのですか?


 冷静に判断するべきだ。今彼は22歳。まだまだこれから。子供達を引き取り、彼にわたくしよりも美しく、清らかで、彼に見合う誰かを…………




 「嫌だ、いやだ……………わたくしは、嫌だ………ッ」


 考えるより先に否定の言葉が出た。


 ____どうしようもなく醜くはしたないわたくしは、もうセオドア様のいない世界を描けなくなってしまった。


 わたくしの世界は____セオドア様が隣にいる世界なのだ。




 アミィールはずっと泣いていた。

 スカイは無表情の顔を崩して、そんな哀れな女を………抱き締めていた。













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