月日の流れは早い
______子供が産まれると月日は一気に巡っていく。育児をしていると一日が早く終わるし、それ以外に執務だって行っている。歳を追えば追うほど仕事は増え、立場も確固な物となり、10代のような自由奔放な生活はできなくなる。
けれど。
「パパー!早く早く!」
「遅いぞおっさ~ん!」
目の前には、無事3歳を迎えた子供達。
パパ、なんて可愛い呼び方をしているのが紅銀の髪、黄金と緑色の瞳の可憐な娘、セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。
実の父親をおっさんと罵るのは群青色の髪、紅と黄金の瞳の生意気な息子、アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイスだ。
そして、その2人の視線の先に居るのは____群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスだ。
彼はギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公に転生したが攻略対象とは結婚せず、サクリファイス大帝国の皇女と結婚した乙女男子、まだ若さの残る22歳の美青年である。
セオドアははあ、はあ、と息を切らしながら子供達に声をかける。
「げほげほ、そんなに急がなくても、ママは逃げないよ、2人とも」
「そうだけど、ママに早く会いたいんだもん………だって、出張で2日も居なかったんだよ?」
「ハンッ!俺達が迎えないと母ちゃんは泣くからな!俺は仕方なくだ!
それより、父ちゃんは足が遅いぞ、だからこの前の『下克上闘技大会』で俺達に負けたんだぞ!」
「ぐっ………!」
セオドアはぎく、と体を震わせる。
そうなのだ。3年に1度の大イベント・『下克上闘技大会』で俺は初めて皇族代表として出場した。鍛えているから簡単に勝っていたのに義母の嫌がらせで子供達の乱入。義父も参戦して白熱の試合をした結果、1位が義父の皇帝、2位がセラフィール、アドラオテルペア、3位が俺だった。
…………って、そんなことよりも!
「アド!その『父ちゃん』とか『母ちゃん』とかやめなさい!」
「じゃあなんて呼べばいいの?おやじ?おっさん?セオドア?」
「なんで普通に『父上』とか出ないんだよお前は~!」
……………この通り、セラフィールはともかくアドラオテルは生意気を極めている。喋れるようになり、走れるようになり、執事のレイの入れ知恵もあり、だ。
セラフィールも最近は色々なことを学んで怯えるより楽しむことを覚えて少し聞かん坊だし、……手のかかる子供達である。
そんなことを思うセオドアを他所に、ぱん!とセラフィールは小さな手を叩いた。
「それより!ママ、帰ってきちゃうよ!玉座の間に行こうよ!」
「そーだそーだっ!行くぞっ、とーちゃん!」
「ッ、ああ」
俺達は階段を登る。子供たちも浮遊せず両手を使って頑張って一段一段登っている。こんなに頑張っているのは、2日も職務を全うできない人間ばかりが仕切ってきたグレンズス魔法公国をこのサクリファイス大帝国に吸収するという大仕事をしに行った妻に、母親に会うためだ。
子供達だけじゃなく、俺だって心が弾む。2日ぶりの愛妻に会えるのだから。
そんなことを思いながら、子供達の手助けをしつつ階段を登るのであった。
* * *
「____無事、グレンズス魔法公国を降伏させました」
紅銀のポニーテール、黄金の瞳の美女は黒と金の鎧を纏って目の前にいる父親に最上の礼を尽くす。
彼女はアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。女でありながらサクリファイス大帝国次期皇帝と名高い23歳である。