主人公の武器
「わっ」
子供達が、ピコピコと靴を鳴らして俺に抱き着いてきた。そして、黄金と緑の瞳、紅と黄金の瞳をキラキラさせて言う。
「セラ、起きたよ!」
「アド、起きたよ!」
お互いがお互いの起きたことを教えてくれる2人に、状況も忘れて笑みが零れた。
「………ふふっ、おはよう」
「あーっ!ゼグスだー!」
「ドゥルグレしゃま、ごきげんよう!」
子供達は小さな妖精神達にも気づいてぴょこぴょこと跳ねる。それを見ていた妖精神はふ、と笑みを零した。
『子供達が起きたなら、俺達は解散だな』
『じゃあね、2人とも』
「えー!帰っちゃうのー?」
「あそぼーよー!」
子供達は唇を尖らせて不平不満を漏らす。セラフィールはどうやら元気になったようだ。見ているだけで安心する。
そんな優しい笑みを浮かべるセオドアを見て、ゼグスはふ、と笑った。
『____それだよ、君の武器は』
「え………?」
『ああ。他の誰も真似が出来ねえ、お前だけの武器。…………ははっ、楽しみにしているぜ?皇配サ、マ』
「ちょっ…………!」
2人はそれだけ言って消えてしまった。
俺の武器って…………なんなんだよ結局!
教えてくれたっていいじゃないか!俺がチート能力よりも強力な武器を持ってるなら自信にも繋がるというのに~!
「ちーと?ちーとって、なあに?」
「ぶきはしってるぞ!剣だろ!
セラ、剣術やろーぜ!」
「いやよ、わたくしは剣なんてきらいだもの」
「ぶー、つれないおんな~しりが重い女はモテないんだぞ~オムツマンめ!」
「あんただっておむつでしょーっ!」
「………………」
2人はきゃんきゃん騒ぎ出す。病み上がりなのだから大人しくして欲しいのだが………これは言っても、聞かないだろうな。
「………はは」
そう思うと、笑えてきた。
子供達は逞しくて、明るくて、俺なんかよりたくさんの武器を持っている。
けれど。
守れるのは___俺だけなんだ。
俺の武器がなんなのかはわからない。
けれど、どんな武器だろうと構わない。
どんな武器も扱えるようになってやる。
セオドアはそう決意を固めて、扉の外にいるレイにアミィール様へ『子供達が起きた』という伝言を伝えて貰った。
アミィール様は文字通り執務室から自室の窓まで飛んできて、子供たちを抱き締めていた。
俺は___それを見ながら、考えていた。
強くなろう。
何度目かわからないけれど、何度も何度も思っているけれど。いくらでもこの気持ちを積み重ねよう。
剣術も武術も魔術も手を抜かない。
子供達の世話も、執務も、全部全部俺がやる。アミィール様も勿論守る。
全てを守る力が欲しい、じゃない。
全てを守る力を手に入れる。
その為だったらなんだってやる。
この幸せを___一滴も漏らしてたまるか。
セオドアは昨日切った親指の傷を舐めた。自分の血はやっぱり鉄臭かった。
* * *
「やあやあ、アドにセオくーん」
セラフィールが元気になって数日が経ったある日、鍛錬場に珍しいお客が来た。
黒の長髪、黄金の瞳のサクリファイス大帝国皇妃で俺の義母・アルティア=ワールド=サクリファイス様だ。
手を合わせていたガロが最上の礼を尽くしている間に俺はアドラオテルと共に駆け寄った。
「アルティア皇妃様!」
「おうっ!今日も精が出てるねえ。魔法剣も全部使えるんだってね?凄いねえ」
「そんな、………最近やっとです。5年もかかりました」
「5年しか!かかってないんでしょう?凄い凄い」
そう言っているアルティア皇妃様の足元で氷の魔法剣を使っている息子を見ると自分の成長速度が遅いんだなと実感しますね、はい。
それはともかく。
「何しに来たんですか?」
「勿論セオくんに用があってよ」