皇女様は可愛い
謁見が終わった。怖かったり驚いたりしたけどなんとか無事に終わり、部屋に戻ってきた。それはいい。
だけど、一つ問題が。
「…………………アミィ?」
「……………………」
「アミィ…………」
「…………………」
……………このとおり、アミィール様が全く、全然、一言も話さないで俺の腕にくっついている。
腕にくっつかれるのはいい。いや、柔らかい胸が当たっててドキドキしてしまうけど……………と、とにかく!何故こんなことになっているのか分からない。
アミィール様のお顔に怒りが伺える。けど、アルティア皇妃様とお話している時のように不機嫌とか、2回目の断罪イベントの時のようなキレている様子ではない。フグみたいに頬を膨らませているのだ。
とても可愛いけれど、…………嫌な事をしてしまったのなら謝りたかった。
「あの、……アミィ様、私は貴方を不快にさせることをしてしまいましたか?そうであれば……申し訳ございません」
「なっ、そ、そんな事をしておりませんわ!頭を上げてくださいまし!」
頭を下げると、驚いた声でそういって離れた。寂しい……ではなく!じゃあ……
「……では、何故アミィ様は口を開いてくださらず、そのようなお顔を?」
「う……………………」
そう聞くと、アミィール様の頬が桜でも咲くかのようにほんのりピンク色に染まっていった。『そうではなく』と何度も繰り返してから、普段の彼女からは想像出来ないほど自信のない、か細い声で言った。
「………セオ様……わ、わたくしのお母様をどう、お思いになりましたか?……」
「?アルティア皇妃様ですか?とても明るく、気さくな人だと思いましたが………」
「そ、そうではなく!………ッ、お、お母様は……性格は奔放で掴み所がなくて、皇帝同様自分勝手ですが……顔だけは、身体だけは……綺麗で、殿方はみんな色香にやられてしまって………」
たどたどしい言葉。ほんのり涙も浮かべている。それを見て、わかってしまった。
…………アミィール様、もしかして俺がアルティア皇妃にうつつを抜かしてしまったとお思いなのだろうか?
確かに綺麗だと思ったし、手を掴まれた時は顔が熱くなった。でも。
「わ、…………セオ様?」
そこまで考えて、セオドアは珍しく自分からアミィールを抱き締めた。彼女が俺にするように、優しく。アミィール様はいくらお強くても身体は女性で、胸の中にすっぽり収まる。
珍しいセオドアからの抱擁に驚きながらも顔を見上げた。
セオドアは____愛おしげに、アミィールを見ていた。
「アミィール………いえ、アミィ。私は、アミィを心より慕い、貴方と共に生きたいと思ってここに居る。
アルティア皇妃はとてもお美しくあらせられますが_____私がそのような不敬にも近い思いを抱くのは、アミィただ1人だよ」
「____ッ」
アミィール様は目を見開きながら、桜色を紅く染めた。紅銀の髪と黄金色の瞳も相俟って、とても美しい。……………確かにアルティア皇妃は素敵だけれど、それ以上にこんな顔をして、母親にさえ嫉妬するこのいじらしい御方に敵う者などいない。
そんな可愛い婚約者に、俺は自然と唇を彼女の額に押し付けていた。ちゅ、と彼女の耳にも入るように音を立てて。
「………アミィール様、可愛すぎます」
「………セオ様………貴方、今、わたくしのことを愛称で呼びませんでしたね?」
「え」