主人公の息子は決める
セオドアはそこまで考えて、泣きじゃくるアミィールを抱きしめた。
「アミィ、泣かないで。セラフィールが起きちゃう。………アドラオテルも見てるよ。
アミィは何も悪くない。自分を責めないで」
「ッ、ああ………!」
アミィールはセオドアの胸の中で泣いた。セオドアも若干目元に涙が滲んでいる。それを見て、アドラオテルはセラフィールの近くまで来て言った。
「セラ、起きろよ。なあ、お前が寝たらパパもママも泣くんだぞ、お前が寝たら俺だって暇なんだぞ…………起きてよ」
「ッ………アド………」
アドラオテルはそう言いながらもぎゅ、とセラフィールの小さな手を握った。口を尖らせながら寝ているセラフィールをぐりぐりと弄る。
そして、それをしながらアドラオテルは両親に聞いた。
「………………だいしょう、ってなに」
「___ッ」
「パパ、ママ、………だいしょう、って何?かぜ?おねつ?げり?
ねえ、………俺たちのからだ、おかしいの?」
「……それは………」
アミィールは言い淀む。
たった2歳、けれども、2歳なのだ。早いかもしれないけれど、この子達は『普通』の子供ではない。成長が早いんだ。………まるで、生き急いでいるようにも見える。
そう思うと、悲しくて、辛くて………涙が出た。アミィール様も沢山涙を零している。鼻先が赤い。
アドラオテルはそれを見て、『そっか』と言った。
「いまの、なし。俺、なにもしりたくない。きかない。
でも、これだけは教えてよ、………セラは俺に『おはよう』って、言ってくれるんでしょ?」
「………ッ、アド!」
「わっ」
セオドアは聞いていられなくて、アミィールの居る腕の中にアドラオテルも収めた。
____この子達を守る方法を、探さなくては。
____この愛おしい御方が泣かないように、何かしなければ。
どうなるかわからないなんて、俺は絶対認めない。認めることなんてできない。
「____パパが、どうにかする、どうにかするから…………」
「パパ……………」
アドラオテルの顔を、父親の涙が濡らす。アドラオテルはそれを見ながら、思った。
____パパは泣き虫だ。ママも泣き虫だ。
だから、俺は笑っていなきゃいけない。
セラもそうだ。今は寝ているけれど、俺達はずっと笑顔でいなきゃ、この人達を悲しませてしまう。
楽しいことを沢山しよう。
嬉しいことを沢山しよう。
苦しいことはしない。
悲しいことはしない。
この身体の痛みを引き摺って、笑ってやる。
だから____泣かないでよ、パパ、ママ。
アドラオテルは、父親と母親に身を委ねた。
アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイス。
将来、彼が『ユートピアで1番自由な男』と呼ばれることを、誰も知らない。
* * *
「____ん」
セラフィールは起きた。
ここは………パパの部屋?
なんで、わたくし、ここで寝てるの?
そんなことを思っていると、近くに小さな手があった。…………弟の手だとすぐにわかった。だって、目の前で寝てるし。それだけじゃない。ベッドの両端には両親が驚いた顔をしていた。
「セラ!」
「セラ!」
「ま、ま。ぱ、ぱ………?」
「ッ、痛いところはございませんか?苦しいところは?」
「ううん、ないよ」
「ッ、セラ………」
「わっ」
パパがわたくしを抱き締めてきた。
じんわりと温かい、いい匂い。ママも抱きしめてくれる。目が赤い。泣いていたのかしら?
「ぱぱ、まま、痛い痛い?」
「ッ、………セラ、優しいね。ままとぱぱは大丈夫だよ」
「そっかあ。よかった………」
そう答えていたら、眠くなってきた。
うとうとすると、2人が離れてくれた。
もう少しだけ、寝ちゃお。アドも居るし、お昼寝……………
そこまで考えて、セラフィールは目を閉じた。