その断罪イベント、許しません
ザッシュの言葉に、身体が震えた。
怒りである。計画的に冤罪を被せられて、怒らない奴がこの世に居るか?
でも、俺にはそれを否定する証拠がない。そしてこのクラスの雰囲気は明らかに自分の劣勢を意味している。何を言っても、クラスの全員がザッシュの言ったことを信じるだろう。
どうすれば………………
悩んでいると、涙目のマフィンが甲高い声で叫んだ。
「婚約解消よ………………!この事をわたくしのお父様に告げ口しますわ!そうしたら、貴方はもうこの学校どころか国にも居られませんよね?
いっそ女王陛下に申し付けて貴方を処刑してもらいますわ!いいえ、それだけでは足りません!オーファン家一族を処刑してしまいましょう!」
「………………!」
これには、驚いた。いや、呆れたというか。何を言われているのか分からなかった。…………確かに、コロンブス家の権力は我がオーファン家と並ぶほど大きい。
その上内向的な父親と比べたら、コロンブス家の方が各方面との交流がある。もっと言えば王家と連なる由緒正しき血統でもあるから……この無茶苦茶な処罰ができてしまう可能性がある。
俺を大事に育ててくれた、大切な人が沢山居るオーファン家がこんな巫山戯た冤罪のせいで没落するのは、我慢できなかった。
「待ってくれ!マフィン!
私はそんなことをしていない!信じられないなら私だけを処せ!家は関係ないだろう!」
「何を言っているんです?貴方の不始末は末代までの恥ですよ。それでも足りないほどの不名誉です、ふふ、女遊びが過ぎましたね」
ザッシュが笑っている。
マフィンも泣きながら笑ってみせた。
「セオドア様、そんなに嫌なのでしたらここで土下座してみては?わたくしの気持ちを変えることができるかもしれませんよ?」
嫉妬に狂った女というのはここまで醜くなるものなのだろうか。他にも、攻略対象キャラを初めとする全員が嘲笑している。クスクス、という笑い声が鼓膜を揺らして不愉快だ。
でも……………自分の頭一つで、オーファン家を守れるなら安いものだ。仮に自分が処されても、俺を大事にしてくれた家族に苦い思いなどさせたくない。
そもそも俺がゲーム通りに動かなかったのが悪かったんだ。マフィンや他の攻略対象キャラから逃げ回っていた俺に非がある。怒りはあるが、それでもこれは俺の不始末だ。頭を下げること位、怖くない。怖がってはダメなんだ。
そう自分に言い聞かせ、震えを押さえながら俺はその場に膝を着く。そして頭を____「そんなこと、することないわ」……………?
凛とした声が、クラスに響いた。
笑っていた全員が黙る。俺も、動くのを辞めていた。
こんな声を出せるのは、このクラスに一人しかいない。
コツ、コツという足音が響く。どんどん近づいてきて、俺の目の前で止まった。令嬢が履くようなものでは無い、高価な革ブーツ。俺は、顔を上げた。
そこには_____紅銀の長いストレートヘア、黄金色の瞳、それを壊さないように、綺麗に整えられた鼻立ち、ピンク色の唇、すらりとしつつも女らしい体をしたアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスその人が立っていた。
アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。
その名をこの学園で知らない者はいない。
ヴァリアース大国の北にあるユートピアで1番大きな国・サクリファイス大帝国の皇女で、友好国であるヴァリアース大国にて留学している御方だ。文武両道で容姿端麗、家柄も全てパーフェクトな御方なのだが……………このゲームに出てきた記憶はなかった。ここまで設定を盛り込んでいるのに、モブなのである。
そんな彼女が、何故………………?
困惑している俺を他所に、アミィール様はクラス全員に聞こえるように言う。
「____たった一人の生徒を言葉の暴力で追い詰めるなんて、本当に貴方達は貴族ですか?みっともないですわね。
この教室は豚小屋かなにかでしょうか?」
「………………ッ、アミィール様、これは私達ヴァリアースの問題ですわ。出過ぎた真似をなさらないでくださいます?」
マフィンは顔を引き攣らせながら言う。高飛車な少女でも、立場の違いを心得ているのだろう。
それを聞いて、アミィール様は笑った。