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食べ物に例えてしまうのは

 




 わたくしは人殺し。

 わたくしは『死神姫』。

 人の心など皆無で、そこに後悔も躊躇もない人格破綻者で排泄物。



 たくさん自分を否定する言葉が浮かんでは、消えていく。



 そして、最後に残ったのは____この、わたくしの下にいる愛する御方に祝われたい、子供達を祝って欲しい、………悲しい過去を持つ父を祝って欲しい、という気持ち。



 わたくし、すごく戸惑っている。

 だから聞いたんだ、祝われていいのか?と。


 「___わたくしは、穢れています。セオ様には綺麗なところしか見せず、醜くも浅ましくこの世の生を全うしています。


 人を傷つけることも、自分が傷つくことも…………些事だと片付けられてしまいます。


 そのような女が____本当に、祝われて………いいのでしょうか」



 自分の言った言葉に、涙が溢れてくる。

 わたくしは何を言っているのだろう。このような問いは心の優しいセオドア様を困らせる事だとわかっているのに。今までやった非人道的なことも言えないのに、このようなことを_____!




 そこまで考えたところで、温かいものに包まれた。押し倒したはずのセオドア様が、身体を起こしてわたくしの首に手を回して抱きしめてくださっていた。微かにワインの香りのする吐息が耳にかかる。




 「アミィ、アミィは穢れていない。…………アミィは人を傷つけても傷つけられても些事だと思う、というけれど、では何故___そんなに悲しい顔をしているんだい?」



 「____ッ、それは」




 そんな顔を、わたくしはしていたでしょうか。甘い声はわたくしの鼓膜を揺らす。



 「アミィ、本当に冷たい人はそのように泣かない。そのように悲しい顔をしない。………アミィが仮に人を殺していても、それはアミィがこの世界を、この国を………誰かを守る為じゃないか。


 悪くないかと言われると分からないけれど____それでも、俺はアミィの味方でいるよ。


 アミィがどんなに穢れていても___俺は貴方を愛する」



 「んっ_____」



 セオドアはアミィールから少し離れて唇を重ねる。何度も何度も唇を交して、覆い被さっていたアミィールから力が抜けて、くるりと立ち位置を逆転させる。そして、次は深いキスをする。



 _____アミィール様の大好きなキス。


 深くて甘くて喰らうようなキス。

 どんなに悲しんでいても、このキスをする時だけは蕩けたお顔を見せてくれる。



 少し唇を離すと、案の定顔を赤らめ涙目で俺を見ていた。トロン、とした黄金色の瞳は俺の大好きな顔だ。



 どんなにこの人が悲しんでいても、どんなにこの人が傷ついていても____俺がそれを慰める、俺がその傷を優しく舐める。



 この御方が産まれたことが間違いだなんて、そんなことはありえない。


 この御方が産まれていなかったら、今の俺はいないのだから_____。



 セオドアは再び唇を重ねる。アミィールのドレスに手を掛ける。全てをさらけ出された美しい身体、それは、やっぱり綺麗で…………穢れてるとか、穢れていないとか関係ない、そう思わせてくれた。



 芳醇なワインの香り、甘い蜜、それらが混ざりあって不思議な味になる。けどその味は、____物凄く癖になる、そんな味なのだ。



 だから何度も何度も味わってしまう。

 どんな味もこの御方と食べるものは、感じるものは、全部俺の大好物。


 …………好きな人を食べてしまいたいほどだという表現は、こういう時に使うのだろう。


 この人と出会うまで、意味は分からなかった。



 けれど、今ならわかる。



 この人の全てを口内に収めてしまいたい_____



 セオドアは本能の赴くまま、彼女の顔から涙が無くなるまで深く、熱烈に愛した。












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