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お酒の力で本音爆発 #1

 




 「子供達~ちゃんと歯茎で潰して食べなさいよー?」



 「あーい!」


 「あーい!」




 黒の長髪、黄金色の瞳の美女、サクリファイス大帝国皇妃のアルティア=ワールド=サクリファイスの言葉に、双子は元気に返事をしてそれぞれ自分でスプーンを持って離乳食を食べる。もごもごと面白い顔をしながら食べる姿は愛らしい。すっかり慣れ親しんだ家族の光景だが…………セオドアの顔は暗かった。



 それにいち早く気づいたのは妻であるアミィールだ。



 「セオ様、どうなさいました?お顔が優れませんが…………」



 「いや、その……………」




 「セオ、言ってみろ」



 そう静かに聞いてきたのはこのサクリファイス大帝国の皇帝、紅銀の髪に紅い瞳の美丈夫、ラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイスだ。冷酷非道、人でなしと呼ばれることの多い彼だが、セオドアを息子として寵愛している。




 しかし、その寵愛を受けているセオドアは妻に言われても、義父に言われても黙っている。そして、そわそわと落ち着きがなく、顔を赤らめている。何か言いたいことがあるのは明らかである。




 言うんだ、言うんだ俺!………けど、言って場の雰囲気が壊れたらどうしよう。2人が悲しんだらどうしよう。それは嫌だな、だって2人とも繊細じゃないか。けど、俺だって男で夫で息子で………言わなきゃいけない。なのに、ビビりなヘタレの乙女男子の俺は口を開けない。先のことを考えすぎて言葉が紡げない。



 なんでもいいんだ、怖気付くことなく言えればなんだって。せめてきっかけを____あ。



 不意に机の上に乗っている『ある物』が目に止まる。これを口に含めば俺は厚顔無恥になれるのか?言いたいことを言えるだろうか?



 「おい、セオ、早く____!」



 「セオ様!」




 ラフェエルの言葉を全て聞く前にセオドアは『あるもの』__妻の飲んでいるワインを手に取り、一気飲みする。それはいい飲みっぷりで、それを見た子供達は『きゃー』なんて言いながら拍手をしている。



 ____弱虫で泣き虫の俺が堂々といられる方法は、酔うこと以外にない。


 芳醇な香りと上昇する顔の熱。それを感じながら…………正常な思考は放棄した。



 「せ、セオ様………!」




 おろおろと戸惑うアミィールを他所に、セオドアはだぁん、と音を立ててグラスを置いた。そして、真っ赤な顔、緑色の瞳を潤ませながら言った。



 「ラフェエル皇帝、アミィ_____私の、我儘を聞いてください」


 「わ、我儘………?」



 「____言ってみろ」



 首を傾げるアミィールを他所に、ラフェエルは持っていたナイフとフォークを置いて、住まいを正した。それを見てからセオドアは大きく息を吸った。



 「皇族誕生式典を復活させてくださいっ!」



 「____!」




 「………」




 ラフェエルとアミィールは言葉を失う。

 誕生式典の復活__20年前以上に行われていた、その日に必ず生まれる生贄のための式典だ。その言葉は、この親子にとって重いもので。自然と気分は落ちていく。最初に口を開いたのはアミィールだった。



 「セオ様…………それは、なりません。いくらわたくしの愛おしい御方でも、その式典は____行いたく、ありません」



 「私も反対だ。あのような悪しき風習はもう要らん。『生贄』の存在を敬う風習など、捨てるべきなんだ。だから今までもやらなかった。



 そして___これからもやらない」



 2人はそう言って悲しげに眉を下げた。

 その様子をアルティアは静かにみていた。



 そりゃ、こうなるわよね。この日はラフェーが死ぬ日だった。今までもこの日に第1皇太子は死んできた。思い出したくもない心の傷なのだ。



 けれど。




 「…………んぬん………」



 アルティアがそこまで考えた所で、セオドアは下を向きながらぶつぶつ、小さな声を出した。その声はどんどん大きくなり、最終的には顔を上げた。大きな美しい緑色の瞳に涙を称えながら、怒鳴るように言った。




 「2人はッ!もう生贄ではないのです!」




 「ッ!」



 「ひうっ………!」





 子供達は耳を塞いで目を瞑った。

 逆にアミィールとラフェエルは目を見開いた。酔っ払ったセオドアの言葉は止まらない。






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