表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

370/470

これは最後じゃない

 



 そんな楽しい思いで過ごしたからか、時間が経つのは早くて。



 「兄上、今度はどこに行くんですか?」



 「サクリファイス大帝国を見て回ろうと思っている。せっかくの都会だからな、楽しまなくては。


 …………だから」



 セフィアはそこまで言ってちら、とサーシャとアミィールを見る。正確には___腕の中の子供達を。



 「うぎぎ…………!」



 「ふぐぐ…………!」



 「ひっく…………」




 アドラオテルとセフィロトはお互いの服を引っ張り離れないようにし、セラフィールは既に泣いて、それでも同じように引っ張っている。………これをかれこれ1時間やっているのだ。よほど楽しかったらしく、3人は仲良くなり、泊まっているあいだはずっとくっついていた。



 けれど、別れというのは来るもの。何度も言い聞かせたのにこうして離れまいとしているのだ。いじらしいけれど、兄上達にもスケジュールがある。



 セオドアはそこまで考えて、アミィールの腕の中にいるアドラオテルとセラフィールの頭を優しく撫でた。




 「2人とも、離れないとダメだよ、困ってるよ」



 「やーや!」



 「やーや!」



 2人は激しく首を振る。セフィアも同じようにセフィロトを諭す。


 「お前もだ、セフィロト」



 「ふぐぅ、ぎゃぁあっ!」



 セフィロトは大声で泣き始めた。

 そりゃあ、離れさせたくないさ。俺だって泣きたくなる。仲の良い3人を引き剥がさないとならないのは心苦しい。



 自然と自分も涙目になるセオドアを見て、アミィールは諭すように3人に言う。




 「御三方、離れてくださいまし。…………わたくし達は家族です。会いたい時に会えるのです。


 アド、セラ、なので困らせてはなりません。また会えるのですから」




 「そうですよ、アド様、セラ様」



 次はサーシャが口を開いた。優しく泣いているセフィロトのアドラオテルの服を掴む手を解きながら、子守唄を歌うように言う。



 「ロト、また遊びに来ましょう。だから、泣かないでくださいませ」



 「っ、ぐ………ひぐっ」




 …………母親というのは強いな。子供達が母親の言葉を聞いて悲しそうにしながらも言うことを聞いている。父親というのは、力ばっかり男でやっぱり母親には叶わないのかもしれない。



 セオドアは涙を滲ませながらも感動し、その様子を見守っている。兄のセフィアはそれを優しく見てから、セフィロトを撫でた。



 「いい子だ、セフィロト。…………じゃあな、セオ、アミィール様。元気でやれよ」



 「ええ。また遊びに来てくださいまし」



 「………はい、兄上も」




 こうして、兄上達を乗せた馬車は動き出す。セフィロトはずっと馬車から顔を出し、子供達は馬車が見えなくなるまでそれを見送っていた。





 * * *




 「ひぐっ、えぐ…………」



 「せふぃ、ない、ぶう」



 「………………」



 「………………」




 夜、セオドアの自室にて、セラフィールはグズグズと未だに泣いて、アドラオテルは未だに頬を膨らませて怒っていた。セフィロトがよほど好きだったのか、ずっとこの調子だ。アドラオテルに至っては俺が『セフィロトを帰らせた』なんて思っているのか、俺が触れようとすると激しく怒った。


 けれど、さっきはアミィール様に任せてしまった。だからこそ次は俺が諭す番だ。



 「ぱぱ!やー!」



 「っう………?」



 セオドアは泣いているセラフィールと暴れるアドラオテルを抱き寄せて優しく包み込んだ。二人の顔の間に自分の顔を挟んで、静かに言う。



 「楽しかったね、ロトくんと仲良くなったの、セラもアドも凄いよ。最初は戸惑っていたけれど、仲良くできたじゃないか。


 次は俺たちから会いに行こう。会いに行って、次は長く遊ぼうね。できるいい子はいないかな?」



 「……………」



 「……………」




 アドラオテルとセラフィールは顔を合わせた。しばらく見つめあってからお互いの涙を小さな指で掬って、大きく頷いた。そして、父親を見て大声で言った。



 「「できゆ!」」




 「!…………ふふっ、ここにいたね、いい子達が」




 セオドアは大声に驚いたけれど、すぐに柔らかい笑みを浮かべて、抱き締めた。



 可愛い可愛い子供達の成長は、俺のことも成長させてくれる。____こんなにも、幸せなことなんだ。



 セオドアは2人を抱きしめながら、しみじみとそれを感じていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ