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穢れた血

 



 時間が、止まった。

 アミィール様は冗談を言う時、いつも笑顔だ。だから冗談かどうかはわかる。



 そして。



 アミィール様は、笑っていない。




 「____わたくしの母・アルティア=ワールド=サクリファイスは、"龍神の最後の後継者"でした。わたくしもこれ以上の詳しい話は存じ上げません。



 けれども、わたくしは、…………龍になれるのです。純血の人間じゃ、ないのです」





 アミィール様はポロポロと涙を零した。大粒の涙を流しながら、震えていた。自分の体を抱きしめて、堪えるように続ける。





 「わたくしには、………穢らわしい血が、龍神の血が流れていて、完全な人間ですらない。



 セオ様…………………ずっと、言い出せず、申し訳ござ………ッ」





 「………ッ、アミィ!」





 泣き崩れるアミィール様を黙って見ていられなかった。俺は慌ててアミィール様を抱き留める。すごく震えている。服に涙が落ちる。…………嘘じゃないんだ。アミィール様は、泣きながら嘘をつくような人じゃない。




 アミィール様は泣きながら、それでも言葉を紡いだ。





 「セオ様を騙すような事をして、申し訳ありません、わたくしが、人間でなくて、申し訳ありません、わたくしは、………誰とも結婚してはならない、穢れた血の持ち主でッ……わたくしは好きな人など作ってはならない生き物だったのです……



 でも、でもッ、………貴方と出会ってしまった……………」





 胸が苦しい。こんなに子供のように泣きじゃくりながらも、いつものように俺を抱き締めようとせずひたすら自分の涙を手で拭っている。





 「声をかけてはならなかった、関わってはならなかった、………それは分かっていたのに、わたくしは自分の気持ちさえも御せず、貴方を愛してしまいました…………引き返せないくらい愛してしまって、それなのにその事を伝えられず、…………


 国境を超えて、もう引き戻せないところまで連れてきて、わたくしは吐露して………ッ、ごめんなさ___ッん」






 俺はアミィール様の顔を持ち上げて、唇を無理矢理奪った。

 自分からキスをするのは初めてだったけれど……これ以上、アミィール様の謝罪を聞きたくなかったのだ。



 いつもの甘い唇が、塩っぱい。

 でも_____嫌いな味では、ない。




 「っふ……………セオ、さま?」



 涙を流しながら呆然とするアミィール様。その話が本当でも俺は____




 「_____俺は、貴方を愛しているんだ」




 「____!」





 セオドア様が、自分の事を俺、というのは初めてだった。いつもは私、と言うし、こんな風に真剣な………怒った顔を、しない。







 「俺は、俺の意思でこの婚約を受けたんだ。貴方が…………アミィが悪いとか、俺が悪いとかじゃない。



 _____ただ、両思いなだけだろ」




 「……………ッ、ぁあ……………」




 そう言ってセオドアはアミィールをキツく抱き締めた。アミィールは震えながらセオドアの背に手を回して声を上げて泣いた。





 _____アミィール様が悪い訳では無い。



 _____勿論、俺が悪い訳じゃない。




 ただ、お互いが惹かれて、お互いが同じ想いを抱いて、こうして2人で居る。



 龍神とか人外とかそんなの関係ない。

 俺は、アミィール様が好きだ。愛しているんだ。どうしようもなく愛おしいんだ。



 それの何が悪いんだ。____アミィール様が責め立てられる俺の手を取って導いてくれた"運命"を、そんなことで否定されてたまるか。





 主人公としてではない。セオドア・ライド・オーファンとして、…………俺として、この強く優しく………悲しい人を愛するんだ。






 セオドアは、アミィールが泣き終わるまでずっと抱き締めていた。











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