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題目『温かい家族』

 




 「アミィ、聞いておくれ、国民達がとても喜んでくれたんだ!私は怖くて下をあまり向けなかったけど!声を聞いて………」




 「……………」




 わたくしがシースクウェアから帰ってきて、部屋に戻ってからセオドア様が嬉嬉として今日あったことを教えてくださる。いつも以上に興奮していて、いつも以上に嬉しそうに顔を綻ばせている。



 それを見ていると、わたくしの疲れさえも飛んでいくようで………心地いい。



 セオドア様は稀有な力を持ち、殆ど軟禁状態で生活している。国民達と触れ合える時間は少ない。国民たちの声を聞くには城で声をかけるしかない。お母様を怒りたいけれど____愛おしい御方がこのように喜んでくださるのなら、感謝しないわけにいかない。



 未だに話し足りないと沢山喋るセオドア様を優しく抱き寄せた。



 「………アミィ?ハッ、私は沢山喋ってしまったか…………!?ご、ごめん、疲れているのに…………」




 セオドアは我に返って申し訳ない、という。けれど、アミィールは小さく首を振った。そして、笑みを浮かべてセオドアを撫でる。




 「いいえ。セオ様が喋ってくださるのが嬉しくて、癒されますわ。


 けれど、そんなに喜んでもらえるのでしたら、お母様ではなくわたくしがしてあげたかったですわ」




 「アミィがアルティア皇妃様のようにお菓子を投げようとしたら、私は止めるよ」



 そう言って楽しそうに笑う殿方。子供達も机に置いてある離乳食のような子供用のケーキを食べて笑顔だ。



 どんなに疲れても、これを見るだけで癒され、疲れも取れる。まるでそれは魔法のようだ。



 アミィールはそこまで考えて、目を細めた。



 「ふふ、………わたくし、すごく幸せです」


 「私も………すごく、すごく幸せだ」



 「一緒、ですね。…………ところで、そのお菓子と共に配ったという絵はどんな絵ですか?」



 「ああ、アミィには見せてなかったね。………これだよ」



 セオドアは思い出して、胸元のポケットを漁った。そして、折りたたまれた紙を手に取り広げてみせる。アミィールはそれを見て………目を見開いた。




 「これ、は……………」



 そこに描かれていたのは、子供達だけではなく。

 ____セラフィールとアドラオテルを抱いているわたくしとセオドア様、そして、わたくしを抱き締め人差し指と中指を立てているお母様、そしてセオドア様の肩に手を置いているお父様。


 みんな笑顔を浮かべた____美しく温かい絵。


 わたくしはセオドア様を見る。

 セオドア様は顔を赤らめ、目を伏せて小さな声で言う。



 「………………本当は息抜きのつもりで描いたんだ。家族の絵を………けれど、アルティア皇妃様がこれがいい、と仰って…………



 子供が書いたような絵だろう?少し、恥ずかしいな」



 そう言って『少しではなく物凄くだな』と訂正して困ったように笑う。



 この絵______



 「…………………わたくし、この絵を飾りたいです」



 「え?」



 「この素晴らしい絵を………飾りたいです。家族全員が集まる、皇族専用食堂に。綺麗な額縁に入れて………」



 「そんな、素人が書いたものだよ?」



 「セオ様から見た、わたくし達。


 それを見ていると___温かく、て」



 アミィールはそこまで言って、涙を零した。不思議、何もされてない、何も言われてないのに、涙が出るのです。



 ___この絵のわたくし達は、『呪われた一族』には見えないのです。絵の中だけでもわたくし達は…………普通の、理想の家族に見えるのです。



 ぎゅ、と絵を抱きしめ涙を零すアミィールに子供達が寄ってくる。背中を摩っている。セオドアは驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの優しい笑顔に戻って___アミィールを優しく抱き締めた。




 言いたいことがわかるんだ。

 俺達は、血にまみれた一族なのかもしれない。高潔な皇族なのかもしれない。


 けれど。



 そんなの関係ない、普通の、温かい家族でいいんだ_____。





 セオドアはアミィールが泣き止むまで、優しく抱き締めていた。子供達も泣き止むまで大好きな母親を撫でていた。





 ____この絵は本当に皇族専用食堂に飾られた。この絵ひとつが煌びやかな食堂には似合わない。けれども誰も外さず、ずっとその絵が飾られていた。










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