皇女は意外と毒舌
そんなこんなで25日が経った。
馬車での移動は疲れるものだと思っていたが、アミィール様の馬車はとても揺れが少なく、柔らかい椅子が受け止めてくれていて、リムジンに乗ってる気分になった。…………リムジンに乗ったことないけれど。
「アミィ、サクリファイス大帝国というのはどんな国なん、………だ?」
このとおり、敬語をやめる練習も絶賛行っている。敬語をひとつでも使ったらキスをされるからだ。そして、敬語を使わなくなったら唇にキスをされる。
…………いくら思考が乙女チックでも、俺の心はちゃんと男で。キスをすれば求めてしまう。この前はやばかった。自然と胸に触れてしまっていた。柔らか………じゃ、なく!それはともかく!色々やばいのだ!
一人顔を赤くするセオドアにふふ、と小さく笑みを零しながらアミィールは自国についてを話す。
「サクリファイス大帝国は、ヴァリアース大国と比べて自然が少ないわ。ゴミゴミとしていて、あまり見栄えがいいとは言えないかも。
けれど、国民は陽気で活発だわ。最近では孤児や農家も学を積ませて、何か要望_こういう政策が欲しいなど_があれば、自分で考え進言する。
他の国のように宰相が色々考えるのではなくサクリファイス大帝国に住む民が気づき、動く。皇族はそれを手伝う………そんな国ですわ」
「へえ…………………」
正直、凄いと思った。
自分で考え、行動するを徹底して行う国などこの世界には……俺の知る限りほとんどない。それを大帝国と呼ばれるほどの大国で行うなんて……できるのか?と疑問に思うくらいだ。
「なので、やはり皇族というのは多忙を極めてしまうのです。…………折角の馬車の旅だと言うのにつまらない思いをさせてすみません」
「つまらないことなどあり………な、い。アミィ様が真剣に仕事をしているのを見ると、私も頑張らねばと思うから…………」
「………ふふふ、セオ様に褒められると嬉しいですね。でも、"様"がまたついております」
「あ…………ごめん」
「謝らないで下さいまし。…………サクリファイス大帝国の者が軽々しく頭を下げるのはよくありません。
"軍事国家"なんて呼ばれていますが、実際はそれぞれがそれぞれの誇りを持っている為、研鑽を怠る者はおりませんの。居たら理不尽な皇帝が刃を振るいますので」
皇帝……………つまり、アミィール様の父親である。
ラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイス。
この名前を知らないユートピアの人間は居ないと言っても過言ではない。剣術を学べば必ず皇帝の名前が出て、勉学をすれば必ず皇帝の名前が出て、新聞を読めば必ず皇帝の名前が出て、…………他にも何かをすると必ず皇帝の名前があるのだ。
それだけ多方面に置いて優れている、正に世界の頂点に君臨する御方…………だと認識している。
その有名人が自分の父親に当たると考えると顔の熱もさ、と下がるというものだ。
「?セオ様、顔色が悪いですわ、休憩致しますか?」
「いや、そうではなくて……………改めて認識したんだ、凄い御方の息子になる、というのはここまで重圧を感じるのだな…………アミィ、は、やはり凄い」
そう言うと、『そんなことありませんわ』とにこやかに笑った。
「確かに、皇帝としても世界を牽引する人間としても優秀だと贔屓目無しに言えますわ。
けれど、人間性は排泄物ですので」
「はい?」
アミィール様、今やんわりウンコって言わなかったか?実の父親に向けて言う言葉ではなくないか?
驚いた顔をしているセオドアを他所に、いつもの高貴さを維持しつつ再び口を開いた。
「理不尽、人でなし、硬い頭、自分勝手………どこをどうとっても人間としては下の下、そんな親から産まれたわたくしがあのようになるのかも、と思うと吐き気がします」
…………排泄物発言も驚いたけど、それを上回るほどの暴言に思わず閉口する。目の前にいるのは本当にアミィール様だよな?誰にでも優しく強い御方だよな…………………?
しばらく口を開けなくなったセオドアでした。




