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皇女と愛娘

 




 考えれば考えるほど暗い気持ちになる。

 子供達が産まれてもなおわたくしは『任務』をしていません。血だらけの腕でこの子達を抱けないから、躊躇しているのです。



 …………決めたことをひっくり返して、みっともない。それなのに醜く『この子達の前ではいい人でいたい』と願ってしまう。



 わたくしは、本当にダメな母親____「あう!」…………!



 そんなことを考えていると、いつの間にかセラフィールがわたくしの目の前に来ていた。やっぱり浮遊魔法を使ってふわふわと浮いている。ピンクの光が眩しい。



 「あうー?」



 「…………セラ、お腹が空きましたか?


 ご飯にしますか?」



 「うー」



 セラフィールはふるふる、と首を振ってからアミィールの胸の中に勢いよく飛び込む。アミィールは反射的にそれをしっかり抱き留めた。…………とく、とく、という小さな心音が身体に伝わっていく。



 見下ろしてみると____黄金色と緑色の瞳と、目が合った。………セオドア様と、同じエメラルドのような緑の瞳。そして、右目には忌まわしい龍神の証である黄金色の瞳。



 その瞳は穢れを知らずきらきらと輝いている。自分の娘なのに、……直視するのが怖くなって顔を背けようとするが、それを小さな手で遮られた。



 「ま!」



 「……………ま?」



 「ま!ま!」



 「……………!」




 突然の言葉に、目を見開く。

 今、ママって…………いいえ、これは聞き間違えよ。だって本に赤ん坊は9ヶ月まで喋れない、と「ママッ!」……………




 そう言って、セラフィールは満面の笑みを浮かべた。それが………弱っていた心に染み渡る。



 わたくしは、貴方のママで____いいのですか?



 「ッ、う……………」




 アミィールはその場で涙を零しながらセラフィールを抱き締める。力を入れれば折れてしまいそうな身体を、大切に、優しく抱き締めた。




 _____わたくしを受け入れてくれるのは、セオドア様だけじゃないんだ。



 _____わたくしは、どんなに穢れてもこの子の母親でいいんだ。



 ____わたくしは、…………この子を、守りたい。



 アミィールは侍女・エンダーが居ることも忘れて泣く。エンダーは優しくそれを見守り、腕の中に居るセラフィールは嬉しそうに抱き締められていた。




 ____わたくし、お腹の中でずっと言ってたよ、ママ、すき、って。






 セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。


 その子供が____未来で『神童』と呼ばれる程、頭がすこぶる良くなることを、穢れた母親はまだ知らなかった。






 * * *





 セオドアの自室にて。



 「アド、いいか」



 「ぶぅ」



 「膨れてもダメだ、ちゃんと聞きなさい」



 「ハッ」



 「………………」




 セオドアは鼻で笑う生意気な息子、アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイスと向かい合っていた。後ろで執事のレイが口元を抑えて見守っている。




 セオドアは大きく深呼吸をして、再びアドラオテルを見た。



 「____アド、頼む、頼むから……………侍女のスカートの中に潜るなッ!」



 「ぶふっ」



 真っ赤になりながらそういったセオドアの言葉に、とうとうレイは笑った。



 このエロガキ………おっと口が悪くなった、我が息子アドラオテルは生後5ヶ月を迎えたという所でこういう『悪戯』を始めたのだ。一緒に廊下を歩いて、侍女を見かければ浮遊魔法でスカートの中に逃げ込み、エンダーを見かければ抱っこではなく太ももにしがみついているという。




 これは由々しき事態なのだ。決して笑い事じゃないのだ。



 「だから笑うな!レイ!」



 「ひ~!ませてる、すごくませてるよセオドアの息子は!本当に親子なのかお前ら!


 ゴホッオエッ」



 笑いすぎて噎せているレイをセオドアは睨みつける。アイツ絶対自分が俺の執事だってこと忘れてる………!




 けれど、本当に辞めさせたいのだ。まだ指をしゃぶるだとか可愛らしい癖ならいい。優しく『やめようね』と言い聞かせられる。けれどもアドラオテルのやっていることは他人………侍女達を巻き込む事なのだ。しかしこの美貌でこのような赤ん坊の為、侍女達はどこか嬉しそうにそれを受けている。



 つまりは嫌がってないのだ。

 しかし、そのせいで将来的に寵愛を受けられるから、と侍女たちの間で噂されているとレイに言われて急遽このような場を設けたのだ。









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