育児 #とは
ラフェエル皇帝は続ける。
「子供達が敗戦を感じ、それにやさぐれることなく育つ為には____沢山の愛が必要だ。お前達が子供達に行うのは『叱責』ではなく『教育』だ。
怒る役は喜んで私達が買って出よう。お前達はちゃんとこの2人をケアするんだ」
「………………」
まただ。
セオドアは一人、思う。
嫌な役とか、やりたくない役とか…………この皇帝夫婦は進んで請け負うんだ。それが、この人達が生きてきた方法を示しているようで…………悲しくなった。
俺とアミィール様はその言葉を聞いて…………何も言えなくなって。アルティア皇妃様の『新しい食事持ってきて~』という言葉が皇族専用食堂に響くまで、口を開けなかった。
* * *
「あー」
「うー」
「……………はあ」
夜、会食を終え先に風呂からあがった俺はセラフィールとアドラオテルが2人で遊んでるのを見ながら溜息をついていた。
……………育児、というのは難しいな。
俺は怒るのが苦手だ。仮に怒ったとしても『この人なら言って大丈夫』という安心感の元言う。アルティア皇妃様が典型的な相手だ。
けれど。
目の前にいるこの二人の愛らしい子供達に、どう接すればいいか正直わからない。可愛い、と思っているからこそわからないのだ。大事にしたい、でも、大事にするにはどうすればいい?
デロデロに甘やかすことが育児なのか?
ガミガミと口煩く叱ることが育児なのか?
____前世でも子供がいなかった俺にわかるはずがない。
けど、『わからない』で済まされる話ではない。世の中の親と呼ばれる人間達はみんな同じ道を通ってきたはずだ。そして、それぞれの教育を行ってきた。俺も父上と母上に育てられ、ここまで大きくなったんだ。俺がちゃんと自分なりに考えられるのは紛れもなく両親のおかげで。
アミィール様もズレている所はあるけれど、それでも努力を怠らず驕ることなく分け隔てなく人と接し、それらしく振る舞えるのは両親である皇帝夫婦に育てられたからで。
…………そういう風に育てたい。
自分の意見をきちんと言葉にし、人に優しく、努力を怠らず、自分で考え、動く…………サクリファイス大帝国の国民のように、育てたいのだ。
でもそれには俺自身のレベルアップも不可欠で。それをするには何をすればいいのかわからなくて。
加えて。
俺だって父親だ、ダメなことはダメと教えるのは………俺の役目なはずなのに、甘えてばかりで。
「_____ダメな父親だな、俺は」
セオドアはぽつり、呟いた。
その時____小さい何かが2つ、乗った。
「…………?」
セオドアは首を傾げながら、顔を上げた。そこには…………ふわふわと浮遊しながら眉を下げるセラフィールと、むす、としたアドラオテルが居て。二人の手が頭に乗っていると気づくのに暫く時間がかかった。
「…………セラ、アド」
「…………あーぶ?」
「ぶ」
ぽかすか、と何度も何度も小さいか弱い力で叩かれる。呆然としていると2人は顔を合わせてからふわり、更に浮かんだ。
「?」
ふわふわと浮きながら二人のおもちゃ箱が置いてあるコーナーに行く。がさごそと中を漁ってから____戻ってきた。
「あぶ!」
「………む!」
「…………!」
セラフィールの小さな腕いっぱいに持てるだけの沢山のぬいぐるみが。アドラオテルの腕の中には剣や絵本、レイから貰ったのであろう美しい女性の小さな肖像画が。どれもこれも二人のお気に入りだ。
それを、俺の目の前に押し付けて…………満面の笑みを見せた。
____もしかして、励ましてくれているのか?




