求め合う2人
「涙は、収まりましたか?」
「……………はい、お見苦しいところを見せてしまい……………」
セオドアは顔を真っ赤にしながらもじもじとしている。好きな人の前で号泣するのは2回目だ。とてもじゃないが慣れる気がしない。
というかこんなに女々しいと流石のアミィール様も呆れてしまうのでは…………?
そう思いちらり、と覗き見るとやっぱり目が合った。いつも見る度に目が合うけど、どういうことなんだ……………?
「……………ふふ、やはりセオドア様は素敵ですわ。ころころ表情が変わって、見ていて飽きませんもの」
「な、そ、そんなことはないです…………アミィール様は美しすぎて直視できないというか…………はっ!」
俺は何を言っているんだ!?婚約者に直視できないって言うとか…………!無神経か!?無神経なのか!?うわ…………これ途中で馬車から降ろされたり「…………アミィ」…………?
ぽつり、アミィール様が言葉を発した。よく分からなくてお顔を見ると___ほんのり赤が差していた。
「わたくしのことは、アミィと呼んで、ほしいです……………」
「あ、…………」
愛称……………だと!?次期皇帝であらせられる!アミィール様を!愛称で!顔を赤くして頼まれるという新たなプレイ!ど、どうするべきなんだ…………?愛称で呼ぶなんて不敬じゃ…………で、でも拒否したらアミィール様は傷ついてしまうのでは…………!?
こ、こういう時は!
「わ、私のこともセオと気軽に呼んでください!……あ、アミィ様」
「_____ッ」
「うわっ!」
向かいに座っていたアミィール様が思いっきり抱きついてきた。ただでさえ揺れる馬車が更に揺れる。
「_______セオ様、わたくし、凄く嬉しいです」
「____ッ」
甘く、それでいて凛とした声が鼓膜を揺らす。しかも耳元だからなんだか変な気分になる。あのアミィール様が余裕なさげに言っているのも夢みたいだし、もう、なんていうか、凄い…………!
語彙力が完全に死亡するセオドアの隣に自然と座ったアミィールは、下を向く愛おしい男の顔に優しく触れ、上を向かせる。
……………とても、真っ赤なお顔。トマト、いちご?それともタコ………って、わたくしってば食べ物ばかり。こんなに意地汚かったかしら?
本当に、この御方を好きになってから……………わたくしがわたくしじゃないみたい。けど、それが悪い気にさせないのがまた…………………愛おしいなあ。
「んっ……………」
アミィールは自分から唇を重ねる。突然の行為にセオドアはびく、と身体を揺らすが、おずおずとしながらもアミィールの細い腰に腕を巻き付けた。
甘い、甘い唇。唾液でさえ甘いのだから、アミィール様の身体は砂糖か蜂蜜、可愛くて美味しいもので出来ているのかもしれない。もっともっと味わいたくて、どうしても欲張ってしまう。
「ん、ふ、……………」
セオドアは更に深く唇を重ねる。ぎゅう、と自分の体に密着させて、何度も何度も重ね直して、開いた隙間に自分の舌を滑り込ませる。
…………セオドア様は、いつもは内向的だけれど、こうして二人きりでわたくしからキスをすると人が変わったように求めてくれる。それがたまに恐ろしいと感じる時さえある。怖い、ではなく、身体の力が抜けて……蕩けてしまいそうになるから。
キスをしている時のアミィール様は凛々しい顔を崩して少女のような顔をする。16歳なのだから年相応だと思うだろうけれど、………普段が格好よすぎて、男前だから、その破壊力はやばい。苦しそうに、それでも応えようと頑張っているアミィール様が愛おしくて堪らない。
____これ、サクリファイス大帝国に行くまでずっと求め合いそうで怖い。
キスをしながら、2人の心は合致した。




