主人公は人の親になる
「んっくくく、……………」
「アミィ…………!」
何時間、経過したのだろう。
アミィールの名前を呼びながら、セオドアは朦朧とする頭で考える。
いつもはあっという間に過ぎていく時間が今は途方もなく長く感じる。アミィール様は………ずっと苦しんでいらっしゃる。何度も意識を失った。そして痛みで意識を取り戻す。
それを何度も繰り返して、俺はその度に目の前が真っ暗になるんだ。
助けて差し上げたい。早くいつもの優しい笑顔がみたい。
そんな思いが胸を占める。あろうことかどうして子供なんか産もうとするんだ、なんて最低な事を考えてしまう。
こんなに苦しまなければ手に入らないものなのか。
わからない。
わからない。
俺も意識が何度か遠のいた。それだけ長く、途方もない時間なのだ。出口の見えない暗闇にいる気分だ。
…………………何もかもに絶望してしまったような心地。そんな時だった。
「ほぎゃあ!ほぎゃあ!」
「……………!」
突然、甲高い泣き声が部屋に響いた。セオドアは急いで顔をあげた。産婆の腕に___紅銀の産毛を頭に生やした小さな、とても小さな子供がいて。
それを見たアルティアは呆然としているセオドアに静かに言った。
「セオくん、せっかくだし産湯につけてあげなさい。貴方のことだから分かっているんでしょう?
その間に産婆さんがもう1人取り上げるから産湯につけて」
「セオドア様、失礼致します」
「なっ………………!」
産婆は押し付けるように赤ちゃんを渡してきた。突然言われても、と焦ったけれど、腕にすっぽりと収まる小さな物体は存在を誇示するように手足をバタバタさせて泣いているんだ。
俺の、子供………………。
驚きと戸惑いで涙さえ出ない俺は、言われるまま赤ん坊を産湯につけた。普段から出産の本を読んでいたから知識はある。
その知識を使って赤ちゃんの体を洗う。洗いながらわかった……………この子は女の子だ。
「ふぎゃあ、ふぎゃあ!」
「…………!」
そんなことを思ってると、次は違う泣き声が後ろからした。赤ちゃんを産湯から上がらせ、見ると__自分と同じ群青色の産毛の赤ちゃん。産婆は臍の緒を切って俺の隣にあるもうひとつの産湯につけた。テキパキと身体を洗ってから、俺に赤ちゃんを押し付けた。
「…………………こちらは男の子でございます。どうぞ」
「わ………」
セオドアは赤ちゃんを2人、腕に抱える。
2人とも小さくて片手でも持てるくらいだ。……なんとも言えない温かい気持ちが込み上げる。嬉しい気持ち、なのか、泣きたい気持ち、なのか……普段はあんなに泣くのに、今は出ない。現実を受け止められない、というか……
「セオ様………………」
ふと、後ろからアミィール様の声がした。見るとアミィール様は少しだけ身体を起こしてこちらを見ている。
「セオ様の、御子達は…………?」
「アミィ………大丈夫だ、よ、2人とも元気で……。女の子と、男の子だよ」
セオドアはアミィールによろよろと歩み寄り、暴れている男の子とすやすやと眠る女の子を見せた。アミィール様はそれを見るなり、目を見開いて____ほろり、と涙を零した。
「セオ様の、子供達……わたくし………産めたのですね………もっとお顔を見せてくださいまし……」
「………あ、ああ」