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春の月の18

 





『普通』の子供は臨月になったら生まれる。何を持って『普通』というのかは分からないし、俺が前世で生きていた日本では確実とは行かなくても日にちの調整は出来た。



 親というのはその日を心待ちにしている。生まれてくる子供を迎え入れる準備をし、そして生まれた時に盛大に喜ぶ。



 他の人はわからないけど俺はそう思っているし、子供を持つなら盛大に祝うと決めていた。




 だが、俺達夫婦………いや、俺の愛おしい妻は『普通』ではない。



『第1皇太子は必ず決まった日に生まれる』



 そう、文献には記してあった。

 最初は信じられなかったし、その後も信じていなかった。



 けれど。



 それは____どうやら、本当らしい。





 * * *





 春の月の18日。



 「っ、あぁ…………ッ!」



 「アミィ………っ!」






 群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは涙目で紅銀の長髪、黄金色の瞳を持つアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスの手を握っていた。



 じんわりと手汗が滲んでいる小さな白い手が俺の手を折ろうとするように固く繋がれる。息遣いも荒く、玉のような汗を流している。




 これがどういう状況か分からない人間は居ないだろう。



 これは_____



 「ほら~!気張れ~!アミィール~!赤ちゃん出てこないよ~!」



 「アルティア皇妃様!気が散るんで黙ってください!出産は命懸けなのです!」



 セオドアは黒髪の長髪、黄金色の瞳を持つ目の前で苦しむ妻によく似た義母でありサクリファイス大帝国皇妃のアルティア=ワールド=サクリファイスに怒鳴った。



 ____そう、アミィール様の陣痛が始まったのだ。



 セオドアは未だにギャーギャー騒ぐアルティアを放ってアミィールの手を両手で包み込む。



 春の月の18日早朝、まるで決まっている運命だと言わんばかりに、陣痛が始まったのだ。朝起きたらアミィール様がお腹を押さえて苦しんでいた。俺はすぐさま魔剣・ダーインスレイヴを呼び、アルティア皇妃様、別室にいるラフェエル皇帝様、先日来た俺の両親2人、そして産婆に伝えてもらった。



 全員、この日に生まれると確信していたから集まるのにそう時間はかからなかった。………本当は俺もアルティア皇妃様も別室に行くように言われたけれど、そんなの嫌だった。



 立ち会いたかったのだ。我が子達にすぐ会いたかった、ということもあるが………よくドラマやアニメなどで子供を産み落として死ぬという展開がある。そうなったら嫌だった。祈るような気持ちで懇願して同席を許してもらった。




 アルティア皇妃様は、アミィール様が龍で暴れたり、『代償』が起こった時などの有事に備えてスタンバっているんだ。




 それはともかく____




 セオドアはそこまで考えて、愛おしい妻に目を向ける。




 「はぁ……ッ、くう…………」



 「アミィ…………!」



 アミィール様は美しい顔を歪めて、こうして痛がっている。子供を産む痛みというのは鼻からスイカが出るくらいだと前世で聞いたことがある。それだけ痛いのだ。流石に強いアミィール様もこれは痛いらしく、涙が滲んでいる。



 見ているだけで俺まで涙が出てきた。




 「アミィ、アミィ………!」



 「ッ、せ、オ様………泣かないで、っあ、ください、まし…………わたくし、かなら、ず………セオ様の赤ちゃん、っ産み落とします、から………」




 アミィール様はそう言って痛そうにしつつも俺に笑みを向けている。俺を心配させないように、という気遣いが伝わって………涙は更に溢れる。



 頑張って、頑張ってくれ、アミィール様……!



 俺も、俺も居るから………!




 神にも祈る気持ちで、俺はアミィール様の御手を額につけた。









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