断罪イベント発生!?
レインズ伯爵家の御子息、ザッシュ・ハイド・レインズ。同い歳でこの作品の悪役だ。
我儘かつ女誑しで、よく身分の低い者を見つけては意味も無く貶していたり、婚約者の有無に関わらず令嬢を口説いたり、気に食わないことがあるとクラス全員を使っていじめの標的にしたりと好き放題していて……クラスに1人は居るであろうボスのような存在。しかし成績優秀、眉目秀麗、巧みな言葉で生徒はもちろん先生にも一目置かれ、大抵の不祥事は見過ごされる程である。
そして、主人公の俺の事を嫌う男でもある。
ザッシュはにやにやしながら話しかけてくる。
「セオドア殿は公爵家の方でありながらこのような些事まで行うなど、随分暇でいらっしゃるようだな」
「……………」
このとおり、俺よりも爵位が低いのに敬うどころか貶してくるような奴。正直、苦手なタイプである。マフィンが好きで、婚約者である俺のことが気に食わないのだ。ならばいっその事代わりに結婚して欲しい。
しかし、そんなことを言えるわけもなく。できる限りの笑顔を作る。
「………中々楽しいですよ、ザッシュ殿もやってみますか?」
「そんな汚い事を貴族がするわけないだろう」
なんともムカつく言い方である。確かに、花壇の世話をする貴族はいないが、それでも汚いと表現することないじゃないか。
「まあ、ほどほどにしてくださいよ。誇り高き私達貴族がそのような事をしているのを見ると品位を疑われますんで。
マフィン嬢が可哀想だ」
「………………心得ておきます、助言、感謝します」
形だけでも頭を下げる。納得は出来ないけれど、無闇に争い事を起こすものでは無い。
俺が頭を下げると満足気にしてザッシュはその場を去った。そして、1人溜息をつく。
俺もいっそ、悪役だったらよかったのに。死なない程度の断罪なら甘んじて受けたい気分だ。
そんなことを思いながら、花に再び水をやった。
この願いが叶うとは露ほども知らずに………
* * *
そんな日々を送って、もう16歳を迎えていた。学園を卒業する日も近づいているが、恋愛フラグは何一つ立てていない。回避、回避の毎日を送ってきた。多分、どの攻略対象の好感度も高くないだろう。
これって誰とも恋愛しなかったらどうなるんだ?やっぱり、婚約者であるマフィンとの結婚か?……嫌だな、ああいう高飛車な女性と生涯を共にするのは……
そんなことをぼんやり考えつつ、いつも通り登校する。でも、周囲はなんだかいつも通りではない。俺が通ると、コソコソと小声で話す生徒がちらほら視界にはいる。
…………?
俺、なにかしたかな………………。
疑問に思いつつも、教室の扉を開けた。
教室にはクラスメイトが中央に固まっている。いつも飛びついてくるマフィンが、ザッシュと共に人の中心にいて、ジッ、と俺を睨んでいた。
状況がわからず、首を傾げていると、マフィンが口を開いた。
「セオ…………いえ、セオドア様。ザッシュの話は本当ですか?」
「話………?」
「とぼけないでくださいませ!わたくしという者がありながら、沢山の女性を手篭めにしていると聞いたのですよ!」
「………………は…………?」
マフィンの言葉に呆気に取られた。
全く身に覚えがない。攻略対象キャラは近づいてくるけど、他の女子とは全く口を聞かない俺がどう女を手篭めにする?攻略対象キャラだって距離を取っているのに…………
未だに理解出来ていない俺に追い打ちをかけるように、ザッシュが言った。
「もう隠せないぞ?2年の赤毛の女子や、ヘイリーと、ターニャと寝たんだろう?なあ、ヘイリー、ターニャ」
「ええ、あの時のセオは情熱的で……………」
「うん、気持ちよくて、頭が真っ白になったわ」
そばに居たヘイリーとターニャは頷く。は?何を言っているんだ?最近口も聞かないようにしてるしそんな事実一切ない。冤罪だ。
なんでこんな状況が起きている?
そんなことを思いながらザッシュを見た。攻略対象キャラ全員がザッシュの服の裾を掴んでいたり、腕にひっついたりしている。首筋には赤い跡もある。
……………………そういう事か。
何度か少女漫画で見たことがある。悪役が様々な人を誑かし、主人公を陥れようとするシーンを。
このゲームは泥沼ゲームだったか……?
「おい、なんとか言ってくださいよ、セオドア殿。まさか、ここに来てそれは事実じゃないとかいうんじゃないですよね?
そんなみっともないことを公爵家の貴方が言うわけないですよねえ?」