その皇女、冷酷につき
「____わたくしがなぜここにいる、でしたっけ?」
美しく気高い女は武器も持たずに堂々と男達とその前に立つ女達、そして悪役伯爵に歩み寄る。
その目は____怒りに満ち満ちていた。
「なんでだか_____本当に分からないの?」
「ッ、貴方達!行きなさいッ!」
ヘイリーの大声に、男達は女に向かって走り出す。女は手を前に出して静かに言った。
「秘術・波動砲」
「ぐぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「かはっ………!」
気高い女が短く言葉を発しただけで、男達は吹き飛んだ。女は歩みを止めずに威厳のある声で言う。
「お遊戯に付き合っている暇はないの…………悪いけれど、今のわたくしはとても虫の居所が悪いので。
___少々、手荒です」
そう言って、指をパキパキと鳴らしながらニッコリと笑った。
* * *
「うう…………」
「ッ……………」
本当に、一瞬だった。
セオドアは途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、目の前で起きた光景を見ていた。
マフィンの『風刃』を片手ひとつでかき消し、素早く気絶させ、残りの攻略対象もザッシュも打撃のみで制した。踊るように人を蹴り飛ばしたり投げたり殴ったりしたのだ。五分経った頃にはもう誰も立っていなかった。
転がる人間を踏みながら、俺の元へ駆け寄ってきた。
「お待たせ致しました。はしたない姿をお見せしてすみません、セオドア様。
………この状態をまず、治しましょう」
「___ッ」
アミィール様は俺の唇に自分の唇を押し付けた。ピンク色の魔力が唇を通して吸い取られていく。熱かった体が冷めていき、頭もすっきりした頃、名残惜しげに唇が離れた。
「な、にを…………………」
「本当はセオドア様と甘いひとときを過ごして治して差し上げたかったですけど…………このような下賎な場所で営みを共にするのはわたくしも嫌なので。
強制的に解除しちゃいました」
そう言ってぺろ、と悪戯っぽく舌を出して笑うアミィール様。営み、の意味を理解して俺の顔の温度は急上昇した。な、なんてことを言うんだこの皇女は…………!
一人照れるセオドアをよそに、さてと、と言ってアミィールは立ち上がった。
「わたくしの大切な婚約者を手篭めにしようとした全員を殺しましょうか」
「な、こ、殺すって………!」
「や、やめてぇ…………!」
「こ、来ないで…………」
その言葉に怯える攻略対象者達。そんな中、蹲っていたザッシュが顔をあげた。
「アミィール様…………そのような男よりも私の方が…………!私の方があなたに相応しい!この世界のことをよく知っているし、私は頭も回る!貴方には負けましたけど強いです!
なのでそんな男を捨てて私に___「五月蝿い」……!」
「ダーインスレイヴ」
アミィールはザッシュの言葉を遮ってからぽつり、そう呟いた。すると、刃も柄も青紫に染まった不思議な剣が現れる。それを手に取り、ザッシュに振り上げ_____
「アミィール様!」
「!」
剣を振り下ろそうとしたアミィールの腕をセオドアは両手で掴んだ。アミィールは不思議そうな顔をした。
「……………セオドア様?その手を退けてくださいまし」
「なりません!殺しては………なりません!」
「何故ですか?貴方を傷つけ、あまつさえ犯し殺そうとした者ですよ?」
確かに、その通りだ。
許せないし、見たくもない。
_____けど、それ以上に。
「貴方が……………人殺しをするのは、見たくないです!」
そう言って、セオドアは涙を零した。
※どうでもいい小話
前作の主要キャラがぼちぼちと出てきました。
『この人誰?』と少しでも気になった読者様はよろしければ前作をお読みください。
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