女装確定事項
「……………って、納得出来るか!」
セオドアはそう言って自室のソファの上にあるクッションを殴る。
国民の前で?女装だぞ?俺の醜態を晒すんだぞ?女装姿で『子供が出来ました』と言わなければならないという生き地獄だ。
おかしい。
おかしすぎる。
何かとアルティア皇妃様はこういう悪ふざけをする。絶対頭のネジが1本抜けている。そもそも脳みそあるのかあの人?
「……………セオドアがそこまで怒るのも珍しいな」
執事のレイはけたけたと笑う。
セオドアはそれを睨みながら言う。
「笑い事ではないぞ!お前の主人が女装するんだぞ!?恥ずかしくないのか!」
「寧ろ面白そうだ。いいじゃないか。サクリファイス大帝国の国民は喜びそうだな、ヴァリアース大国では考えつかない娯楽だろう」
「俺達の懐妊演説は娯楽じゃない!」
セオドアはそう断言してクッションに顔を埋める。レイはそれをみてやれやれ、と呆れながら言う。
「いいじゃないか。サクリファイス大帝国は大きくて平和な国なんだ、国民を楽しませるのも公務のひとつだろう?
腹をくくれよ、お父さん」
「うう……………」
………国民を楽しませるのは立派な公務だというのは理解出来る。先日行われた『下克上闘技大会』でそれは凄く感じたし素晴らしい考え方だと思った。国民達の楽しげな顔は俺だって忘れられない。もっともっと笑顔にさせたいさ。
けれど。
「………………それを俺達の懐妊演説でやることないじゃないか…………………」
とうとうセオドアは怒りで泣き出す。
……………こいつは喜んでも悲しんでも怒っても泣くんだよなあ……………サクリファイス大帝国に来て少しは逞しくなったと思ったが泣き虫までは治らなかったか…………
こういう時は話題を変えて気持ちを切り替えさせるしかないな。
「しかし、アルティア皇妃様は自由だよな。普通の貴族なら考えつかないぞ。どんな手を使ったかまでは知らないが、冷酷で理不尽で有名なラフェエル皇帝様がそれを受け入れたんだろう?
それって凄いことだと思わないか?」
「アルティア皇妃様は頭がおかしいんだよ……じゃなければ俺に女装なんてさせない……」
「そりゃあ、お前、似合ってるからやられるんだろう?自信持てよ」
「女装で自信を持てるか!俺は男だ!」
ギャン、とセオドアは吠える。その大声にレイは耳を塞ぐ。本人はこう言っているがセオドアの女装はクオリティが高い。露出が激しいのは流石に男だとバレるが、ドレスなら女と見間違うくらいには美人である。それに、話ではラフェエル皇帝様も女装をやるという。
身体はともかく、あの顔なら女装しても映えるだろう。そこらの女よりは美しそうだ。
そして、アルティア皇妃もアミィール様も美人であらせられるから男装も似合うだろう。アミィール様などは妊娠前からずっと執務中は男装で、密かに侍女達の間にファンもいるんだ。アルティア皇妃は滅茶苦茶で人外ではあるが国民に大人気な皇妃だ。強く美しく明るい人柄は自然と人を集める。
そんな顔面偏差値の高い皇族が女装と男装をする、と言うんだから国民は勿論俺だってみたい。
だが………………
レイはそこまで考えて、改めてセオドアを見る。
「俺は男なんだぞ……なんで女装なんか………父親になるのに……っぐ」
クッションに顔を押し付けてこう泣いているセオドアに、レイははあ、と溜息をついた。




