小さな生命達の音色
「アミィール様!?」
エンダーが声をあげる。片手に愛用の武器・モーニングスターを装備している。敵襲?
いえ、そうであればわたくしが気づかないはずがない。何人も殺してきたわたくしが油断などしない。狙われていたら視線、気配だけでわかる。
では、なにが_____?
『ママ』
「_____!」
脳内に、幼い声が響く。まるでダーインスレイヴが話しかけるように、語り掛けてくる。でもわたくしはダーインスレイヴを手に持ってない。それに、ママ、って……………?
戸惑っているわたくしをよそに、先程とは違う幼い声が聞こえた。
『ママ、すき』
「え…………?」
『ママ、あいたい』
『パパ、ママすき』
『ママ、ママ』
「…………ッ」
頭が騒がしい。それにママって____?
『ママ、ママ、あなた、ママ』
『パパ、ピアノ、すき』
『ピアノ、えほん、すき』
『あいたい』
『おなかすいた、ごはんたべて』
『あそびたい』
____何を言われているか、わからない。わたくしに、話しかけてるの?だれなの?
『ママ、は、ママ、パパ、言ってる』
ママ、という言葉を何度も聞いて、セオドア様を思い出す。セオドア様はいつも、わたくしのお腹を擦りながら『ママのお腹で頑張って育ってね』と口癖のように言っている。自分のことも、パパ、と言っている。
それって……………もしかして……………
アミィールは震えた、か細い声で、言葉を発した。
「わたくしの…………赤ちゃん達?」
『あかちゃん、あかちゃん、なーにそれ?』
『ぱぱ、あかちゃん、いってたよ』
『パパ、おれ、っていってる、わたし、っていってる』
『けど、ママは、わたくし、だよ、違い、なあに?』
『わかんない、けど、ママのここ、あったかいね』
『ね、あったかい』
『すき、すき、いつも、パパ、ママに、いってる』
『ママも、パパに、いってる』
『なんでだろうね』
『なんでだろうね』
「…………………………ッ」
幼く明るい声で話しかけてきている。たどたどしい言葉に品位を感じない。なのに、何故か胸が熱くなった。
熱い胸を抑えて、口を動かしてみた。
「わたくしが、ママですか?」
『うん』
『うん』
『パパ、ママってよんでる』
『ママ、いつもこころがぐちゃぐちゃ』
『こーひーって、なあに?』
『どくって、なあに?』
______やっと、気づいたわ。
この声は、頭に響いているのではない。
お腹から聞こえてくる音なんだ。
この子達の声なんだ。
そう思うと___何故か涙が溢れた。
「…………アミィール様?なぜ、泣いていらっしゃるのですか?」
「お腹の子供たちが、わたくしに話しかけてきてるの……これは、普通のことなのですか……?」
「………それは………」
エンダーは黙る。それが、『異常なこと』なのだと言ってるように思えた。
つまり『普通』じゃないのだ。
____わたくしだけに、聞こえる声なんだ。
そう思うと、嬉しくて、愛おしさが溢れた。
____わたくしが、ママでいいの?
『ママがいい』
『ママじゃなきゃやだ』
『いじょうってなあに?』
『ふつうってなあに?』
「____ッ、う」
涙が止まらない。
何も知らない、けれどもわたくしに話してくるこの子達が愛おしくなって……セオドア様に抱く感情とは違う温かい気持ちがわたくしを包んだ。
わたくしは____この子達の、ママなんだ。
この時、そう強く感じたのです。




