困惑するより愛でたい
「……………?」
置かれた2つのぬいぐるみの手。見ると、オオカミのぬいぐるみとうさぎのぬいぐるみが俺の膝を何度も叩き始めた。
それだけに留まらず、うさぎのぬいぐるみは片手に持っていた絵本を自分に向けてくる。オオカミのぬいぐるみは膝にちょこん、と乗ってそわそわと動き始める。
……………その様子が、可愛くて。
とても不思議なのに、とても驚いているはずなのに。
「………ふふっ」
セオドアは小さく笑った。なんというか、まだまだ出会えるのは先だと思っていた気持ちが、『もう会えてるじゃないか』という気持ちに変わる。愛らしいうさぎのぬいぐるみは俺に絵本を渡してから、寝ているアミィール様のそばに来て手を置いた。そして、俺を見ている。
……………聞かせてくれ、ということなのだろうか。
セオドアはオオカミのぬいぐるみを抱き抱えながら、龍の姿のアミィールの傍に来た。
「いいよ、読んであげる。………けど、ママが寝ているから、静かにだよ?」
それを聞くとうさぎはこくん、と頷き、オオカミは片手をあげた。
それに再び笑みを零して、セオドアは小さな、けどお腹に届くように絵本を読んだ。
いつも無力な自分を感じる龍化の時間が、この日から楽しくなったセオドアだった。
* * *
「アルティア皇妃様、本当にこの動いているのは私達の子供達がやっていることなのでしょうか?」
再び会食の時間、セオドアは動く沢山の玩具の剣と沢山のぬいぐるみを見ながら、アルティアに聞く。
アルティアはそれを受けてあっさりと言葉を紡いだ。
「そうよ。妖精神達に相談して徹底的に調べたから間違いないわ。何度も言うけど、アミィールの時の方が酷かったんだから。
覚えてる?アミィール」
「わたくしはしていません」
「いや、していた。私はお前に何度も剣の相手をさせられたぞ」
笑顔でしていないと言うアミィール様にラフェエル皇帝様がバッサリと切り捨てるように言う。…………アミィール様は赤ん坊の頃からアミィール様だったのか…………
それはともかく。
セオドアは不安げな顔で問うた。
「こうして動くことは………何か魔力が暴走しているとか、そういう現象を起こすのでしょうか………?」
「いいえ、そんなことは無いわ。そもそもアミィールは半龍神よ。人間でこれを行うならやばいかもしれないけれど、龍神はある程度の耐性があるし、龍化を怠らなければ大して害はない…………多分」
「多分って聞こえましたけど?本当に大丈夫なんですよね?何かあったら私はあなたを恨みますよ?」
「言うようになったじゃない、生意気な子供が。………とはいえ、父親としては心配よね。
多分っていうのは私が半龍神じゃなくて純血の龍神だからわからないってことよ。そもそも、私達は人間の1000倍の魔力を持ってるのよ?
その血を持つ子供達が普通なわけがないじゃない」
そう言ってアルティア皇妃様はデザートのタルトにフォークをつけた。横ではアミィール様がまた無理矢理ご飯を食べさせられている。
…………確かに、アミィール様の御子であるのだから、普通なわけはない。それに………
ちら、とぬいぐるみを見た。
ぬいぐるみは___手にフォークを持って、口元を生クリームだらけにしていた。
可愛い…………可愛すぎる…………ぬいぐるみが動くのは怖いと最初こそ思っていたけれど、慣れるとこんなにも可愛く感じるのか…………………
「セオ様?どうなさいました?」
「あ、いや………な、なんでもない」
セオドアはアミィールの言葉に顔を赤らめながら口元を抑えて言葉を紡いだ。




