守りたいんだ
「はあ………………」
レイに言われて、自室のベッドで横になる。俺はどうやら相当疲れているらしい。身体がくたくただ。
…………でも、このくたくたな気持ちが嬉しいんだよ。アミィール様の事を考えるだけでも幸せになるのに、まだ見ぬ自分の子供達の事を考えるのも心が踊る。
だって、これは奇跡だろう?
ギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公として転生した俺は、攻略対象キャラが5人いて、俺はそこから1人選ぶ運命だったけれど、俺は誰も選ばなくて、そしたら断罪イベントという主人公ではありえないイベントが始まって。
あの時の冤罪は悔しかった。
けれど。
_____あれがなかったら、アミィール様は声をかけてくれなかっただろう。
俺はマフィンと婚約関係にあった。俺が望んだものでは無い、ゲームの設定上の関係だ。夜会やパーティにも何度か参加したけれど、何処でも身分を振りかざし、他者を身分で貶めるマフィンを好きになれなかった。だからといってほかの攻略対象キャラに『好きだ』という感情も抱けなかった。
なのに。
断罪イベントをぶち壊したアミィール様に手を取ってもらって、関わって、………世界が変わったんだ。『こうするしかない』と思っていた思考が『こうしたい』に変わった。
そして、アミィール様もそれに答えてくれた。弱々しく男らしくない俺の全てを愛し、そして慈しんでくれた。最初こそ怖かったさ。皇女との結婚なんて、とか、朝起きてアミィール様のお顔があったら緊張する、とか我ながら情けないことばかり考えていた。
けど、今はこの夫、皇配という立場が誇らしく嬉しく、アミィール様が朝いないと寂しくなるくらい俺は深くアミィール様を愛した。今ではアミィール様の父親であるラフェエル皇帝様と仲良く話しているだけでムカムカすることだってある。
俺は我儘になり、自分勝手になり、積極的になった。アミィール様の身体のことや秘密を知った時は自分の立場さえも忘れて皇帝夫婦に刃向かったことだってある。自分が無力だと思ったこともある。今も思っている。
でも、そんな俺がアミィール様との間の子を設けることが出来たんだぞ?そして、とても幸せなんだぞ?
不安は勿論ある。子供達も龍神の力を持つことになる。『代償』や『呪い』のシステムがわかっていない。アミィール様に、子供達に何かあったらと思うと胸が張り裂けそうに苦しくなる。
それを誤魔化すためにひたすら色々手をつけている。力があればアミィール様の、子供達の身は守れるのか?知識があれば、アミィール様の、子供達の事をより理解できるのか?沢山愛を注げば、何かが変わったりしないのか?…………
たくさん、沢山考えても答えが返ってくることはない。途方もない不安が身体を蝕んで呼吸が出来なくなる。
けど、いや、だからこそ。
俺は考えるのを辞めない。動くのをやめない。全ては愛する人達の為に、俺のできることを全てやらねばならない。
セオドアはそこまで考えて、天井に自分の無力な手を掲げる。手の甲には太陽神の契約印がオレンジ色に輝いている。
…………キスをするのは嫌だけれど、男性の妖精神、精霊にはキスをしてもらおう。いや、浮気になるか。ダメだダメだ。しかし、この加護さえあれば、俺は………もっと強くなれるのだろうか。
「____全てを守れる力が欲しい」
セオドアはぽつり、呟く。
傷や病気はおろか生き物の命さえも甦らせるチート能力・"治癒血"で何か出来ないのか?チート能力を持つならそれくらいできるようになれよ、俺。
____もう俺は、守られるだけの存在は嫌なんだ。
「やっぱり、全てを守れる力が、欲しいな______…………」
セオドアはそう呟いて、目を閉じた。




