孫達を早く愛でたい皇帝夫婦
「アミィ、セオ。
腹の子供達が負担になるような事は絶対するな。
セオ、お前は男なのだから全身全霊を持ってアミィの傍にいろ。コーヒーや紅茶、菓子を口に含もうとしたら止めろ。重いものは持たせるな。営みは程々にしろ。
アミィ、お前は食事をきちんととれ。龍化を率先してしろ。鍛錬はするな。セオの言うことは必ず聞け。あまり誘惑するな。
それから……………………」
「…………………」
「……………………」
玉座の間につくなり、ラフェエル皇帝様の恒例、注意事項の説明をもう2時間聞いている。当たり前のところから『そんなことまで?』と思うような細々としたことまで懇切丁寧に教えてくれている。
…………うん、やっぱりアミィール様も俺もこの人にとても愛されているんだなというのが凄く感じる。嬉しい、嬉しいさ。けれどもアミィール様はとっても不機嫌そうな顔をしている。すれ違い真っ只中である。お互い好きだけど素直になれてないのが目に見えて明らかで、報われないな、という気持ちが強い。
そんな説明を止めたのはアルティア皇妃様だった。
「ラフェー細かいわよ。いいじゃない、好きにさせれば。子供達が流れて泣くのはこの子なんだから」
「アル………お前はもう少し子供達のことを考えろ。お前の孫になるんだぞ?ひいてはこの国の皇族になるんだ」
「妊婦に必要なのは最終的に根性なんだから、根性で乗り切れないなら子供なんて産むなって話よ」
「………………………」
アルティア皇妃様はまさかの根性論。こちらはとってもドライである。俺たちはあべこべ夫婦だけれど、皇帝夫婦はでこぼこ夫婦という感じがする。
とはいえ、そんなアルティア皇妃様もなんだかんだ嬉しいようで。
「あの、アルティア皇妃様、お聞きしたいことがあるんですが」
「?なーに、セオくん」
「その、………後ろにあるぬいぐるみの山はなんですか?」
セオドアはアルティアの後ろを指さした。そこには___大きな玉座の間の天井まで連なっているぬいぐるみの山。女の子が喜びそうなものから男の子が喜びそうなものまでてんこ盛りである。
先程から視界に入ってて気になっていたけど、これって全部…………
そこまで考えた所で、アルティア皇妃様はにっこり笑った。
「勿論、孫達の玩具よ!こんなの絶対好きでしょう?他にもベビーベッドからオムツ、乳歯ケースからベビーパウダーまで揃えているわ!」
「……………」
「……………」
気が早い、気が早すぎる。まだ2ヶ月です。この山をこの城の中で一番豪勢かつ大切な部屋に置くところがアルティア皇妃様っぽい。
「…………セオ様、これを全て火魔法で燃やしてくださいませんか?」
「ごめん、アミィ。俺がそんなことしたらアルティア皇妃様に殺されると思う…………」
「………………ではわたくしが燃やしますわ」
「アミィ、やめろ。その身体でアルと喧嘩して子供達になにかあったらどうするんだ?」
「ラフェエル皇帝様、突っ込むところはそこではございません…………」
サクリファイス皇族全員個性的です。
* * *
「アミィ」
「なんでしょう」
玉座の間にて、セオドアを部屋に戻してからラフェエルとアミィールは向かい合っていた。ラフェエルは悠々と玉座に足を組んで座りながら愛娘に言う。
「____任務はもうするな」
「…………!それはできません!」
アミィールはラフェエルの言葉に立ち上がって反論する。
………どうやら、このお転婆は『妊娠』という自覚がないようだ。きっと隠れて行こうとするだろう。釘を刺さねば。
_____セオドアは私に宣言したように、アミィールに子供を孕ませた。
ならば、約束を守らなければならないだろう?
ラフェエルはそこまで考えてふ、と笑みを零してから、言葉を紡ぐ。
「言っておくが、激しい運動をしたら子供達は流れる………すなわち、子供達が死ぬんだ」
「なっ…………!」
死ぬ、という言葉にアミィールは自分のお腹を守るように抱き締める。そして私を睨んだ。………まだ子供の顔だが、母親の真似事をしている。
「____セオとの子供をお前は殺すのか?お前の思い上がった『世界の秩序を守る』、『この世界に贖罪する』という理由で、セオの子供達は死なねばならないのか?
アミィ、今一度考えろ。お前はもう1人の体では無い。…………戦場で死んでいい存在ではない、ということを自覚しろ」
「ッ……………は。わかりました。
子供達を産むまで、わたくしは____『任務』を行いません」
アミィールはそう言って頭だけを下げた。




