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新しい家族 #2

 






 セオドアの涙の溜まった瞳が大きく見開かれる。それはセオドアだけでなく、その場にいた全ての者が黙った。



 _____時間が、止まった。

 まるで某少年漫画でラスボスが使う技のように、誰も何も喋れない。




 かいにん…………って?

 どういうことだ?

 理解出来ない、何を言われたんだ?




 戸惑うセオドアを他所に全員の心を見たグランドは『本当に知らなかったのですか、それは悪いことをしたのかもしれませんね』と呑気に言って、続けた。




『____アミィール様の下腹部に、2つも魂が輝いております。


 ………つまりは、そういう事です』




 2つの魂……………?

 頭が真っ白だ、何も考えられない。

 思考が働かない。なにがどうなっている?


 それがもし、本当であれば____それは……




 未だに言葉が出ないセオドアの代わりに、ラフェエルが立ち上がり、いつもの凛々しさを感じさせない足取りで呆然としているアミィールに近づいて、両肩を掴んだ。




 「…………アミィ、お前、月のものは来ているか?」



 「え、っと…………そういえば、2ヶ月ほど………来ておりませんわ」



 「身体がだるいなどの症状は…………?」



 「あ、あります……それと、食事も最近……」




 アミィール様のお言葉を反芻する。

 …………確かに、俺は馬車の旅をする前にアミィール様を毎日抱いていた。半年前は月のものが来ると流石に抱けないから、と我慢したが………最近はそれがなかった。


 食事も普段から少食であるが、最近は全然食べてないし、食べていても気持ち悪そうにしていた。




 バラバラになったピースが嵌っていく。

 纏まらなかった思考が鮮明に繋がっていき____ひとつの答えを導き出した。



 セオドアは力なく立ち上がり、ラフェエルのようによろよろと近づいた。アミィールはそんなセオドアに困惑の色を見せている。



 つまり、それは_____




 「セオに、子供が………………!」



 「子供が…………!」




 「出来た、のか……………?」

 




 「____ッ、アミィ!」




 「きゃっ!」



 家族も立ち上がる。その答えを聞いた瞬間、セオドアはラフェエルからアミィールを奪って強く抱きしめた。その目にはもうポロポロと涙が零れている。



 ____アミィール様のお腹に、俺の子供が、居るんだ。



 「アミィ………っぐ、アミィ…………!」



 「せ、お様………わたくし、………」



 号泣するセオドアと戸惑うアミィールを他所に、ラフェエルは怒鳴るように叫んだ。




 「セシル!今すぐ医者を呼べ!今すぐだ!」



 「は、はい!」



 場が慌ただしくなる中、セオドアはアミィールを抱きしめてずっと泣いていた。




 _____新しい生命が愛する人の中に芽吹いたんだ。




 そう噛み締めながら、ひたすら泣いていた。





 * * *




 頭が、働かない。


 グランド様は、わたくしの中に『2つの魂がある』と仰った。


 _____それは、どういう意味?



 お父様は、わたくしに月のものがあったかどうか聞いた。女性にそんなことを聞くなどはしたない。



 ____それは、どういう意味?



 セオドア様が、泣いている。いつもの優しい抱擁ではなく痛いくらい抱き締めてくる。耳元にはセオドア様の泣き声が聞こえている。



 _____それは、どういう意味?




 わたくしの身体は…………何か異常があるの?何か悪いことでもあるの?どういうこと?



 知りたい。



 皆様がわたくしを見ている理由が。



 「セオ様……………わたくし、なにが、起きているのですか…………?」




 呂律が回らない中、愛おしい御方に聞いた。愛おしい御方はゆっくりわたくしから離れ、わたくしを見た。




 群青色の髪がぐちゃぐちゃだ。緑色の瞳から涙が溢れている。鼻水も出ている。それなのに。



 _____今まで見た事のないくらい幸せそうな笑顔を浮かべていた。




 「アミィ、…………俺達の間に、子供が、子供が出来たんだ!」




 「____ッ」




 子供?子供が出来た?

 セオドア様との、子供?

 セオドア様の子種が、わたくしの子袋にあるの?


 その種が芽吹いて、ならば、わたくしの身体には……………




 身体が震える、喉がカラカラだ、目の前が滲む。全部悲しい時に現れる症状なのに、心はこんなにも温かさと嬉しさに包まれている。



 わたくしは______



 「わたくしは、セオ様との子供を…………授かったのですか?」




 「ッ…………そうだよ、アミィ!ありがとう、ありがとうアミィ………!」




 セオドア様はそう言って、わたくしに唇を重ねる。甘くてしょっぱいキス。いつもと違うキスなのに____とても、とても素敵な気持ちが胸の中で弾けた。



 _____セオドア様の子供がわたくしの中に生まれたんだ!



 それを自覚すると、嬉しくて、嬉しくて。



 アミィールとセオドアは場所も人が居ることも忘れて長く深くキスをした。













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