ひまわり畑の記憶 #2
※前作の話のネタバレを多く含みます。
ご了承ください。
同じ気持ちだから、言うな?
確実にアルティア皇妃様はラフェエル皇帝様に告白しようとしていた。そして、ラフェエル皇帝様はアルティア皇妃様とキスをしていた。愛し合っているのが伝わるくらい、深い、深いキスをしていた。
なのに。なんで。
疑問ばかりの俺に、風を受けて紅銀の髪を揺れるラフェエル皇帝様が再び口を開いた。
『私…………いや、俺は_____お前が今言おうとした想いを持っている。
だが、それは…………叶えられない』
『っ、なんでよ………………叶えようよ、私も頑張るよ、ラフェエルが死なない方法、考えるよ!だからッ………………』
『……………………すまない。アル……アルティア。
お前が何を言っても、俺は____死ぬ道を選ぶ。お前はそれで龍神になり、幸せになるんだ。俺のことを忘れて、この世界を………………この、悲しい世界を変えてくれ。
そうすればきっと、俺達はまた出会える。
その為の___縁の紐だ』
「…………………ッ!」
会話はわからない。けど、どうしようもなく悲しくなった。好きなのに、愛しているのに声を震わせ突き放すような言葉を並べるラフェエル皇帝様が………俺の知っているラフェエル皇帝様に思えなくて。
それを聞いたアルティア皇妃様は___涙を流してラフェエル皇帝様の背中に抱きついた。
『巫山戯んな、巫山戯んな………!』
悔しそうに、悲しそうに、ずっと譫言のようにそれを繰り返した。ラフェエル皇帝様は今も腕に着けている黒い石が嵌め込まれた縁の紐に唇を落として泣きそうな顔をしている。
それはまるで、悲恋の恋愛映画を見ている感覚に………陥らせた。
俺の頬にも涙が零れる。なんで、なんで…………!
「なんでッ、ラフェエル皇帝様は悲しい顔をしているのにそんなことを言うんだ!なんで貴方を愛しているアルティア皇妃様の言葉を聞かないんだ!なんでッ………!」
悲しい2人の背中に、俺は泣きながら叫んだ。
この話……いや、きっとこれは"記憶"なのだろう。原理はやっぱり分からない。けれども、そうでなければこんなものを見ることなどない。
わかっている。アミィール様が産まれているということはこの2人はちゃんと結ばれる。
けれども。
あまりにも悲しくて、あまりにも美しくて、あまりにも残酷な記憶に____俺は泣いた。
泣いて、泣いて、泣き喚いて………そのまま、目の前が真っ暗になった。
* * *
「……………ん」
目が覚めると___俺は、夕日に照らされながらひまわり畑の真ん中に居た。さっきの記憶のように青空はない。その代わりに__涙を流しながら覗き込むアミィール様の顔があった。
「ッ、セオ様!気がついたのですか!?」
「アミィ…………俺は…………」
「セオ様………ッ、突然倒れて、ッ、わたくし………わたくしは………ッ」
アミィール様はそう言いながら体を起こした俺を強く抱き締めた。
俺はどうやら、倒れたらしい。
記憶はないが…………でも、さっき見た皇帝夫婦の場面はよく覚えている。
_____あれは、なんだったのだろう。
_____なんで俺は、あの記憶を見れたんだ?
疑問は沢山ある。でも、それ以上に。
「…………アミィ」
「?セオさ___っん」
俺はアミィール様から少し離れて、唇を重ねた。外だというのは分かっているけれど、しないことなど出来なかった。
___結ばれることを諦め、悲しんでいた2人が無事結ばれて、この愛おしい御方がいる。
とても悲しい記憶だった。下手な恋愛映画よりも泣けるくらい素敵で、残酷だった。
それを乗り越えて___アミィール様が産まれたんだ。
そして、俺と出会い、婚約し、結婚して____こうして共にいる。
そう思うとさ、物凄くアミィール様が尚更愛おしくて、離れ難くて、大切にしたい気持ちが溢れて、弾けたんだ。
セオドアはしばらく、涙で顔を濡らしたアミィールの唇を優しく、でも何度も奪ってそれを味わっていた。
※ご案内
詳しい話は前作をご覧下さい。




