主人公はデートがしたい #2
呆れるレイを他所に、セオドアの思考は止まらない。
デート、というデートは婚約を結ぶ前に1度しかしていない。恋愛婚ではあるのだが、なんというか味気がないというか。そうでなくてもアミィール様の事はちゃんと好きだ。いや、好きだからこそ沢山色んなところを見たいんだ。
大体、俺はこのチートスキルを持ってても『自由』に生活がしたいと結婚する前にアミィール様と宣誓したんだ。仕事、仕事で自由を満喫出来ていない。
それだけじゃない。
俺達は今年で19歳になるんだ。20歳手前、そして今は絶賛子作り中…………二人の時間を、思い出を作りたいだろう?
とはいえ、アミィール様の執務が山のようにあるのは知っている。無理には誘えない…………けれど…………
「それでも誘いたいな…………今度は、俺から」
「まあな。1度きりのデートもアミィール様からだったし、格好はつかないよな」
「そうなんだよ!」
「おう!?」
セオドアは食い気味に前のめりになって大声をだす。これには流石のレイもびく、と肩を跳ねさせた。
そうなんだよ!俺は何もしていないんだよ!婚約だってアミィール様頼り、新婚旅行もアミィール様頼り、閨を共にするのでさえ殆どアミィール様頼り!男ではなく正真正銘の乙女の所業である。
「一度くらいは俺から誘いたい、そしてエスコートではなく恋人繋ぎをして街を歩き、2人でアイスの食べあいっこして、買い物して、最後は夜景の綺麗な場所でキスをする!これこそがデートだろう!?」
「こいびとつなぎ?………ああ」
レイはセオドアの言葉で思い出す。セオドアは小さい頃から自分に『前世はニホンに住んでいたんだ』と訳の分からないことを言っていた。この部屋にあるミシンもそこで学んで作ったのだから一概に嘘だと一蹴できない。……それはともかく、この話は多分『前世』の知識なのだろう。
とはいえ。
「ここはニホンではないぞ。こいびとつなぎというのはわからないが、その常識は通じるのか?」
「う…………」
ド正論に怯む。………そうなんだよな、俺達は国民ではなく貴族………いや、皇族なのだ。そんなエスコートをしてはアミィール様が不愉快に思われるかもしれない。…………そんなことで嫌われるわけがないと断言できるくらい愛されている自信はあるけど。
「…………とにかく、デートがしたい」
「振り出しに戻ったな。……無限ループする気か?この話を」
「一緒に考えてくれよ、どうすればデートできる?アミィール様の手を借りず………」
「そうだなあ…………あ、いい方法があるぞ」
レイはなにか閃いたのか、ぽん、と手を叩いた。それを聞いてセオドアはレイに詰め寄る。
「なにか思いついたのか!?」
「ああ。いい方法がひとつな。
____ただ、お前は死ぬかもしれないな」
「え」
突然の物騒な話。セオドアは固まる。
なんでデートをする為だけに命の危機を感じるんだ?意味がわからない。
「どういうことだ?」
「簡単だよ、アミィール様の仕事を減らすどころか『休め』と命令できる人がこの城には2人も居るだろう?
その人に頼むんだ」
レイの言葉に思考を巡らす。あの気高きアミィール様に命令できる人………………!?
そこまで考えて、二人の顔が浮かんでセオドアはぶんぶんと首を振った。
「む、無理無理無理!そんなことしたら本当に死ぬだろ!もう1人は話しただけで大笑いされるし!」
「じゃあ諦めるか?あーあ、こんなヘタレを好きになったアミィール様が可哀想だなあ」
「………ぐぅ………」
レイの言葉によろよろとよろけながら歩き、ベッドに倒れる。
確かに怖いし、面倒くさい事になるだろうけど……………俺のアミィール様への愛を見せる時なのかもしれない…………
セオドアはそこまで考えてふるり、震えた。




