主人公はデートがしたい #1
「____デートがしたい」
ぽつり、自室のソファでそう呟くのは群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスだ。
ギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公に転生したが、攻略対象とは結婚せず、サクリファイス大帝国の皇女に見初められ結婚、2年過ぎたというのに未だ新婚気分が抜けきれない乙女男子だ。
「突然どうした?」
そんな乙女男子の言葉に答えたのは、傍に仕える執事兼友のレイだ。
しかし、レイの言葉なんて聞こえていないセオドアはぼんやり考える。
……………アミィール様と共に過ごして、すっかり親しくなった義父母、側近を初めとする従者達と楽しく話して、与えられた孤児院の役目を全うし、教育を受けながら趣味を行う………本当に俺は恵まれているし不満はない。ないのだが…………最近、夜の営みの事ばかり考えている気がする。
確かにそれは1つの愛情表現だ。現に俺は愛おしいアミィール様との甘い時間を過ごすのはとても幸せだし一刻も早く『任務』を辞めさせるにはそれしかないとも思っている。
けれど。
他にもなにかしてあげたいのだ。思えば婚約してサクリファイス大帝国に来て結婚しても、新婚旅行以外殆ど2人で城から出ていない。………まるで、営みの為だけに自分がアミィール様を愛しているようで、凄く嫌なのだ。
もっとアミィール様を幸せにしたい。
俺が幸せな分アミィール様にも幸せになって欲しい。
………………俺は本当に、アミィール様を好きになって我儘になったな。アミィール様と出会う前は『ゲームの主人公だから』という思いばかりを抱いていた気がする。『シナリオは変えられない』などという馬鹿な事を考えていたこともある。本当にそんな自分がこんなにも思考がアミィール様の事ばかりになるとは思わなかった。
「…………セオドア」
「?なんだ?」
「また口から思考がダダ漏れだぞ」
「あ」
セオドアはレイの言葉に自分の口を塞ぐ。…………こういう時俺は本当に変わったのか疑問になるんだよなあ…………
そう思いながらもかあ、と顔を赤くするセオドアに、レイはくつくつ、と喉を鳴らして笑う。
「お前はちゃんと変わったよ、ほんの少しな?」
「…………ほんの少しじゃ嫌だ。沢山変わりたいんだ」
そう言って口を尖らせるセオドアを見て、『感情表現は豊かになったよ』と心の中で呟いた。多分言ったらこれ以上赤くなる。
それはともかく、だ。
「デートと言ったって無理じゃないか?あと数日したらセフィア兄の結婚式に出席する為にヴァリアース大国に行かなければならないし、そうでなくともアミィール様の仕事は減らないし………なにより、お前の"治癒血"の事もある」
「う………………」
『治癒血』…………これは俺が唯一持つチートスキルだ。俺の血は癒しの効果が凝縮されており、死人さえも生き返るというなんというか、ヒロインが持ってそうな回復チートなのだ。そんなものより俺はアミィール様のように龍神の方が___と、これは考えちゃだめだ。アミィール様はこの事で酷く苦しんでおられるのだから。
セオドアはそこまで考えて首を振る。
そして再びレイに聞く。
「それでも、アミィール様と城で慈しむばかりじゃ愛想を尽かされそうじゃないか。デートひとつ連れてってくれないのか!って。女の子はデートが好きだろう?
私はいつまでもアミィール様と新婚気分で居たいんだよ」
「新婚気分って………」
レイは呆れる。ユートピアで1番力のある国の皇配が言うことではない。こいつはきっと乙女で馬鹿なんだ。




