皇女VS主人公
【「はーい、では最後の試合を始めまーす!」】
ビクビクと震える俺を無視して、アルティア皇妃様の声が会場に響き渡る。いつも通り軽快な口調がまた言葉を発した。
【「ルールのおさらい!勝てないと思ったら大きな声で『まいりました!』って言うこと!アミィールは木刀を全力で振り回さないこと!
力半減で魔法は禁止!みんなーおーけー!?」】
「「「おーけー!」」」
アルティア皇妃様の言葉に観客たちが大きな声でそう言う。
…………俺にはまいりましたと言わせないくせによくもまあ…………というか、OKなんてこの世界で使われない言葉だぞ。絶対浸透させたのはアルティア皇妃様だ。
【「ではでは!楽しんでまいりましょう!
サクリファイス大帝国皇女、アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス!
VS
謎の騎士、セド!
レディー……………ゴー!」】
「は!?」
とても軽いノリで戦いが開幕した。
俺は慌てて木刀を握る。と、とにかく落ち着こう!アミィール様はさっきの試合からずっと受け身だ____ッ!
セオドアの予想は見事に外れた。開幕と同時にアミィールが突っ込んできたのだ。セオドアはほぼ反射的に木刀でそれを受け止める。つ、強い力だ……………
しかし、乙女男子と言えど男。おまけにこの強い女の夫なのだ。傷つけたくはないが、負けるのも嫌だ。やるからには………妻よりも強い、という自信が欲しい。
「ッ、はあ!」
その一心でセオドアは攻撃を繰り出す。アミィールとセオドアは踊るように剣を交えた。セオドアは普段からガロやリーブを初めとする強者達を相手にしている。だからこそ平均以上の力を有している。
その証拠に____先程までの戦いは5分足らずで終わっていたのに、既に10分も刃を交え、あまつさえ傷一つ負っていない。
これには観客達も驚く。稀代の天才であり、サクリファイス大帝国という肩書きを持つアミィールと渡り合う謎の剣士。その太刀筋は流麗で華麗、一切の無駄がない。これはもしかして、誰も成し得なかった『皇帝の座強奪』の瞬間をこの目で見れるのでは?と興奮する。
国民達はサクリファイス皇族が大好きだ。尊敬をしている。皇帝は変わって欲しくない。けれども、サクリファイス皇族が負けるかもしれない、というのは緊張が走り、また興奮する。
「セドー!頑張れー!」
「アミィール様~負けないで~!」
更に熱を帯びた歓声、怒号のようである。全員がその場で足踏みをし、地鳴りさえ起きている。ここまで熱狂するのは珍しいことで、解説も更に盛り上げようとする。
【「なんとなんと!既に15分が経過しました!今年こそ皇帝が変わるのか!?どうでしょう!現皇帝様!震えていますか!怖いですか!」
「………………ああ、手に汗を握る交戦ではあるな」
「で!す!よ!ね!皇帝が変わったら私達は憧れの農民でもやりましょう、セイレーン皇国の北の小さな国で………」】
もう解説などしてないじゃないか………!
セオドアは剣を振るいながらも突っ込む。2人とも呑気過ぎるだろ、皇帝の座を奪われるんだぞ!?この凡人に!焦ったりしないのかな………それはともかく、アミィール様の剣は本当に隙がないというか、迷いがないというか…………
そんな攻防を続けている中、アミィールはぽつり、口を開く。
「____やはり、お強いですね。
けれど…………………わたくしが会いたいのは、貴方ではございません」
「え、………っわ!」
アミィールはそう呟くのと同時にセオドアの剣を思い切り弾いた。そして一気に懐にはいる。ま、まずい………!
ぎゅ、と目を瞑ると俺の甲冑が吹き飛び___顔が顕になってしまったのを感じる。その瞬間___首に何かが巻きついた。
そして。
「____っん!」
露になった唇に、柔らかい、慣れ親しんだ感触が。おずおずと目を開けると………アミィール様のお顔が。つまり俺は………キスを、していた。
先程まで叫んでいた観衆の声が、地鳴りのような足踏みが聞こえなくなる。時間が止まったかのような空間でアミィール様は深く、長く唇を交わしてくる。俺も戸惑いながらも心地いい感触にいつの間にか身を委ねていた。




