兄の忠告
「____当たり前です。
アミィール様がどんな御方なのかは私が1番よく知っています。2年も想い続けたのです。
…………もう、アミィール様のいない生活など、アミィール様のいない人生など考えられません。
アミィール様は私の傍に、私はアミィール様の傍に………これは譲れません。私が私でいる為には、アミィール様が居なければならないのです」
弟・セオドアが男らしい顔でそう述べた。
…………どんな御方か知っている、か。でもこの様子じゃ、アミィール様が『任務』をしていることを知らないのだろう。
この弟は、何も知らず生きているんだ。
それを言わないとアミィール様はお決めになったんだ。
…………私が口を出してその気持ちを無下にするのはよくない。わかっている。けれど………あまりにもアミィール様が不憫で、あまりにもアミィール様が悲しいではないか。
ぐ、とセフィアは顔を顰めた。セオドアはちゃんとそれを見ていて………知ってしまった。
兄上は何かを隠そうとしている。…………アミィール様のように、隠そうとしているんだ。
一緒だ。
アミィール様が『自分は穢れている』と泣く時のような、そんな雰囲気を感じて。感じたらさ、我慢なんて出来なくて。
セオドアはゆっくりセフィアに詰め寄る。夜だから静かな声で、だけどしっかり言葉にして。
「兄上、どうかお願いします。___私に、隠していることをお教えください。
アミィール様の『穢れ』とはなんなのでしょう」
「…………!」
兄上の表情は固まった。説明していないのに『穢れ』という言葉だけでこんな顔をするんだ。………俺が知らないことを知っているんだ。
そう思うと、心に暗い影を落とす。暗くなる気持ちで、今すぐアミィール様を抱き締めたい気持ちをぐ、と抑える。
セフィアは最初こそ固まっていたけれど…………すぐに、セオドアと向かい合い、重い声で言った。
「____お前は、お前だけは何も知るな」
「なんでですか!私は、アミィール様の「夫だから、アミィール様がお前を愛しているから聞くな、と言っているんだ」…………?」
兄上は俺の両肩を掴んで、懇願するように言う。
「アミィール様の御手は、『穢れている』。どうしようも無いことで、もう引き返せないんだ。
だが、だが____その『穢れ』を知らない人間が、アミィール様にとってどれだけ幸せに感じると思う?どれだけ安心できると思う?
アミィール様の愛するお前だから___尚更知ってはならないんだ。
アミィール様の涙を見たくないと言うのなら、絶対知るな。…………お前だけは変わらないでくれ、頼む」
「……………ッ」
そう言った兄上の目には___珍しく、涙があった。そんなに、そんなに重いことなのか?それを俺は知ってはならないのか?………何故、アミィール様は言ってくれないんだ。
俺は____そんなに頼りないのか?
涙を流すセフィアとその思いに苛まれ涙を滲ませるセオドアは、月の下で静かに泣いた。
* * *
「じゃあ、セオ、よろしく頼むな」
「…………はい」
俺はしばらく泣いてからその言葉を受けて部屋の中にはいった。………苦い気持ちが胸を占める。口の中もカラカラで苦い。
苦い、苦い。
アミィール様の秘密を俺は知らされなかった。知りたかったさ。無理矢理聞き出そうと詰め寄ったさ。けど、兄上は一言も言ってくれなかった。まるで、俺が知ったらアミィール様と共にいられない、みたいな言い方で。
「_____クソ」
また、自分の無力さに毒を吐いた。
愛する人のことを全て知りたいのは当たり前だろう?愛する人が悲しんでいたらなにかしたいだろう?でも、無力な俺は何も出来ないんだ。何も知らない俺はアミィール様から幸せを貰うことしか出来ないんだ。
ヒモのような男だ。本当に自分に嫌気が____「セオ様ッ!」………!
「わっ」
そんなことを考えながら、寝室の扉を開けると____それと同時に紅銀の髪の愛おしい御方が裸で抱き着いてきた。




