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愛の深い配偶者達

 






『それ』はとてもシンプルなものだった。



 ミサンガのような紐。そこに嵌められた女神の涙と言われるサクリファイス大帝国でしか取れない紅銀の宝石と、深い色のサファイアの宝石が組み込まれている。ブレスレットにしては、なんというかシンプル過ぎるし、けれども、何故か乙女心を擽るような代物だ。




 それを手に取ってみる。アクセサリー程の重さはなく、やはりミサンガという表現が正しいだろう。プレゼントにはあまり相応しく____「それ、(えにし)の紐じゃない」…………?



 不意に後ろから声がした。見ると、別行動していたアルティア皇妃様が手を後ろで組んで俺の手の上にある紐を見ていた。




 ……………(えにし)の紐?

 初めて聞く物だ。アルティア皇妃様はそこまでこの世界のものについて詳しくないのを知っているから、物の名前を知っていることに微かに感動さえ覚える…………じゃなくて。



 「なんですか?それは」



 「(えにし)の紐って言うのはね、サクリファイス大帝国に纏わる伝承的な物で、これを愛する人や家族とつけていると死を司る龍神が『来世で再び会えるように』魂を引き寄せ会わせてくれる…………っていうものなの。



 最も、その龍神はもう居ないんだけどね。



 私もラフェーとお揃いしているよ」




 アルティア皇妃様はそう言って『ほら』と腕を見せてくる。紅いルビーの宝石が付いた同じような紐が括られている。少し年季が入って見えるようなそれは、ずっとつけているという事実を現していた。



 ……………なんというか、とても乙女心を擽られるな。そういう来世でも会えるようにするおまじない、というのは大好物である。




 「………いいな、これ。けれど、プレゼントには向いてないのでしょうか…………」



 「そんなことないわよ」




 少し考え込むセオドアの頭に、アルティアの縁の紐のついた綺麗な白い掌が乗る。



 俺の手に持つ縁の紐を目を細めて懐かしげに見ていた。




 「____これね、私が初めてラフェーから貰った代物なの。あの時は…………ラフェーが死ぬ、って道を選んでいて………『アルと来世で会うために付けて欲しい』って言ってくれたの。



 私、それがとても嬉しくて…………まだ好きだという言葉を言ってなかったのに、胸が熱くなるくらい喜んだわ」




 そうしみじみ言ったアルティア皇妃様は___優しい笑みだった。

 それを見て改めてアルティア皇妃様とラフェエル皇帝様は素敵な夫婦だな、と思った。この恋愛婚の難しい世界で、二人仲睦まじく想いを重ねてきたんだ。何故ラフェエル皇帝様が死ぬ道を選んだのかはわからない、それほどの訳があったはずなのだろうが、それを知らない俺でも………ときめくような、かっこいい言葉だと思う。




 俺も…………俺も。




 「……………これ、私も買おうと思います。

 私達も、来世で結ばれたいですもん。


 もちろん、今世も共に生きると誓っていますが…………死んでも、また巡り会って………どんなお姿でも、愛したいので」




 セオドアはそう言ってアルティア同様緑の瞳を細めて、想いを巡らし笑う。



 来世でも会いたい。来世こそは俺から声をかけたい。あの人の手を取って『結婚してください』って俺から言うんだ。そして、また俺達は2人で生きる。…………そう考えるだけで今世だけではなく、来世も楽しみになるな。




 完全に乙女思考に入った自分の義息を見て、アルティアはふふ、と小さく笑う。

 ラフェエルと同じものを選ぶのって、不思議ね。タイプも考え方もまるきり違うのに、ラフェエルとセオドアくんの思考は同じで、とても『家族だ』って思える。




 私の家族は___本当に、最高の家族だ。


 そこまで考えて、アルティアは明るい声を上げる。




 「喜んでくれるわ、きっと。___アミィールは貴方のことが大好きですもの」



 「はい。知っております。


 ___そして、私もそれ以上に愛しております」




 2人は顔を合わせて笑う。その様は、商人から見たら紛うことなき『家族』に見えてほっこりした。









※ご案内


縁の紐に関しては前作をご覧頂けると嬉しいです

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