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主人公は優しくない

 



 「ん、ふ…………………」




 セオドア様はわたくしの言葉を聞かず、廊下なのに唇を重ねてきた。いつも、公共の場では恥ずかしがってしないのに………………




 何度も何度も、慈しむように啄まれる。涙でぐちゃぐちゃになった自分の顔を見られたくなくて、目をぎゅっと閉じた。





 アミィール様の顔は涙に濡れていた。唇に少し血の味がする。………アミィール様はなにか怒ると、なにか我慢すると直ぐに唇を噛むんだ。……………こんなことまで、俺は知っている。





 ヨウを養子にいれたいほど可愛がるのはわかる。

 俺もヨウのことは好きだ。


 けど。




 それでも____俺達の間に生まれた子供の方が、どうしても気が行くだろう。それは、良くないと思ったんだ。




 みんなは俺を『良い奴』、『優しい奴』と表現するけれど。『良い奴』でも『優しい奴』でもない。



 俺は、アミィール様との御子しかきっと心の底から愛せない。孤児院の子供達は大好きだけど、大好きの種類が違うから。




 俺は_____何にも縛られることなく、自由に自分の子供を愛したいんだ。





 そこまで考えて、セオドアは唇を離した。目を強く瞑っているアミィールの涙を舌で舐めとる。ぴく、と揺れる身体さえも愛おしい。




 「____アミィ、アミィはどう思う?」




 「…………わたくしの心は…………いつだってセオ様と同じが、いいです。


 申し訳ございません、わたくしは……自分のことばかり考えていました……皇女、失格ですね」




 「そんなことないさ。………俺は、ヨウくんを大事にしていた貴方にも愛おしさを感じていたのだから」



 セオドアはそう言ってちゅ、と目元にキスをした。アミィールはそれを受けてから、やっと笑った。けれどもそれは…………とても意地悪な顔で。




 「____セオ様は、わたくしとの子がそんなに欲しいのですか?」



 「え」




 唐突の問いにセオドアは目を見開く。そして、意味を理解してかあ、と紅くなる。セオドアの男前モードはアミィールの意地悪な顔の前では効果を無くすのだ。




 「いや、その、いずれ、ほしい、というか、俺が………1人前に、なってから…………」




 もごもごと吃る耳まで赤いセオドアに、アミィールはくすくすと笑って、抱き締めながら耳元で甘い声を出した。



 「セオ様、…………一週間ぶりの子種、わたくしの子袋に余すこと無く注いでくださいまし」




 「~ッ!」



 アミィールの一言に、理性が完全崩壊したセオドアは、顔を赤らめながらもアミィールを抱き抱え、部屋の扉を閉めて_____朝まで、アミィールの部屋から出てこなかった。






 * * *




 次の日。



 「じゃあね、ヨウくん!」



 「…………しっかり護衛しろ、保母」



 「はい、1週間、この子を預かっていただき感謝致します」




 玉座の間にて、保母がヨウを抱えて頭を下げた。その場には皇帝夫婦は勿論、アミィールとセオドアの姿もあった。


 セオドアは保母に抱えられたヨウの頬に触れる。




 「ヨウくん、また孤児院で会おうね」



 「あぶー!」



 ヨウはにぱ、と破顔する。やっぱり可愛い。………のだが。



 「ッ……………」




 後ろで、啜り泣く声が聞こえる。見なくてもわかる。アミィール様だ。………アミィール様は、朝一で皇帝夫婦に謝り、ちゃんとヨウを返すと言った。けれども、やはり気持ちの整理は出来ていなかったようだ。



 また会える。けれど、ちゃんとアミィール様のお口から『またね』と言って欲しくて。




 「アミィ、こちらへ」



 「…………はい」




 セオドアが優しく微笑みながら手を差し出すと、アミィールは泣きながらもその手を取って、ヨウに近づく。ヨウはそれを見るなり、手を横に振って口を動かした。



 「ば、ばい」



 「…………!い、いま、ばいばい………って!」




 アミィールはそれを聞くなり目を見開く。セオドアはたどたどしいヨウの言葉にくす、と小さく笑ってからアミィールに言う。




 「アミィも、ばいばいしようね」




 「っ、ヨウ様、また会いましょうね」


 「………!」





 アミィールはそう言って、おでこにキスを落とした。……いかんいかん、赤ん坊にまで嫉妬するな俺。これは挨拶だから!相手は赤ん坊だから!


 ……でも、後でキスして上書きしよう……




 そんなことを思っているセオドアを放って、保母とヨウは玉座の間を後にしたのだった。











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