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叱責ではなく説得を

 






 「………ッ……く」



 セオドアは跪いていた。全く動けない。強い重力に引き寄せられるように膝が浮かないんだ。上を見ることすらできない。…………やっぱりアルティア皇妃様は強すぎる…………!




 それでも抗おうとするセオドアの頭に、アルティアが真剣な声で言う。




 「_____貴方がとても優しいことを知っているわ。アミィールを愛してくれているのも知っている。


 けどね、"愛している"と"甘やかす"は違うのよ。むしろ『愛している』からこそダメなものはダメと言わなければならないわ」




 「し、っ……かし………!」




 「……………貴方も聞いたとおり、私は20年前ガロを拾ったわ。そして今も貴方の教育係をしているわね?


 ガロには感謝しているし、大事よ。けど、それと同時に____あの子の自由に生きる道を奪ってしまったの」




 「……………!」




 ふ、と身体が軽くなった。どうやら、言霊呪文は解けたようだ。アルティア皇妃様はヨウを抱きながら、目を伏せていた。




 「____ガロは私に仕える事でしか未来を描けなくなってしまった。私に仕える事に幸せを覚えてしまい、未だに恋すらしていない。



 同じ事を繰り返してはならない。……………ヨウくんを思うのなら、養子になどしてはならない」



 「………………」




 理屈は、わかる。ガロは悲しくなるくらいアルティア皇妃様の事、この国の事ばかりを考えている。あんなに器量がいいのに、侍女にも迫られているのに華麗に躱して………本当にサクリファイス皇族の為に存在しているような御方だ。



 けど、……悔しげにしていたアミィール様を放っておくことなどできない。せめて慰めてあげたい。




 それに、アミィール様がはっきりと我儘を言うなんて初めてだったから。叶えてやりたいと思うだろう?





 「……………ですが…………」




 「___アミィは、未だ子供だ」




 セオドアの言葉を、ラフェエルの低い声が止めた。ラフェエルはナイフとフォークを置いて、初めて顔をあげてセオドアを睨んだ。




 「アイツは………………お前と出会い、お前と触れ合い…………初めての感情を沢山手に入れた。身体こそ大人だが…………未熟なのだ。"感情の無い仕事人間"だったアイツに人間らしい感情が生まれたのはいい事だ。けれど、だからといって何をしてもいい、という訳では無い。


 皇族である以上、自分の感情のままに動く事が正しいことではない。そう教え、今回のように自分勝手な振る舞いについて叱るのは親の役目であり___夫のお前の役目でもある」




 「……………ッ」




『感情の無い仕事人間』

 その言葉が、重くのしかかった。…………アミィール様は俺の前では様々な顔を見せてくれるけれど、仕事をしている時は本当にロボットのように淡々と行うんだ。


 それだけじゃない。アミィール様と共に居て、分かったことがある。あの御方は『楽しい』、『嬉しい』、『悲しい』、『苦しい』………本来人が感じる気持ちを表現するのが苦手なのだ。自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手で、いつも自分一人で抱え込む。最近は少しずつ表に出してくれるようになったけれど、あまり上手ではない。



 それをわかっているから____何も言えない。



 どうすればいいのか、同じく未熟な俺には分からない。



 そう考えると情けなくて、泣きたくなる。


 今にも泣きそうなセオドアを見て、ラフェエルは大きく溜息を着いた。そして、アルティアを見る。


 アルティアもヨウを抱きながら、呆れたような顔をして頷いた。それを見てから、ラフェエルは先程よりは明るい声で言う。




 「____叱れないのなら、せめて説得してみろ。


 できるか、セオドア」



 「………………………」




 そう言われて、考える。

 …………あんなにヨウを可愛がって、幸せそうにしていたアミィール様を叱ることなんてできない。あんなに喜んでいて、せっかく慣れた時に離れ離れになるのは辛い事なのだ。俺はそれを責められる程厳しくなれない。



 けれど____説得なら。



 そこまで考えて、セオドアは涙を堪えてラフェエルを見た。





 「______やります」





 そういったセオドアの顔は確かに『愛する者のいる男』の顔だった。







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