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執事と侍女は主人を想う

 


 「…………エンダー様」



 セオドアが飛び出して行ったあと、残されたレイとエンダーは並んで立っていた。レイは続けて話す。



 「…………アミィール様の穢れ、というのはどのようなものでしょうか?」



 「…………レイ様、貴方はお分かりになるのではないでしょうか。



 ____アミィール様の"任務"を」




 「…………ッ」




 レイは任務、という言葉に顔を歪めた。

 任務____それは、この城でも広くは知られていないアミィール様の仕事だ。俺も1年費やしてやっと知れたアミィール様の裏の顔なのだ。



『死神姫』___アミィール様は小国や反乱因子グループにそう呼ばれている。なぜならば、彼女はラフェエル皇帝の側近、リーブやアルティア皇妃の側近、ガロ………強く優秀な側近達だけでは心もとない時に命令が下るのだ。



 その命令は『殺戮』だ。………反乱因子や危険因子が行う奴隷売買や領地支配など、国民を苦しめる者達を殺して回る仕事をしているのだ。



 女の身でありながらもサクリファイス大帝国の人間として剣を持ち、血に染る。命をその小さな手で奪い、問題を解決させる……………その残酷な任を請け負っているアミィール様。




 勿論、これはセオドアにも教えていない。何度も言うが長く友でいた俺にはわかる。これを言ってはセオドアは深く悲しむだろう。それで愛が薄まるわけはないだろうが____アミィール様は、言いたくないだろう。否、言わないという選択をしたのだろう。




 何も知らないセオドア。



 全てを隠すアミィール様。



 愛し合っている。それはもう見ているだけで溶けそうなくらいおしどりが凄い2人の幸せの裏で行われているという事実を、心の優しい、大切な友には言えない。




 ぎゅ、と拳を握り悲しそうにするレイを、エンダーはそ、と背中に手を回した。




 「レイ様……………そのお気持ちはわかります。けれど___これは、サクリファイス大帝国の皇族として、世界を乱した龍神の末裔、生贄の末裔としてアミィール様が選んだことなのです。



 わたくし達は____その決意に口を出してはなりません。口ではなく、支えるのがわたくし達従者の役目です」




 「……………わかっています。私も、サクリファイス大帝国の人間なので」




 レイはそう言って、無理に笑顔を作った。エンダーは目を細めて、見守ろうと徹する良き執事を見つめていたのだった。




 * * *





 「………………………」




 執務室にて、アミィールは厳しい顔をしながらコーヒーを飲んでいた。



 _____とても、不味い。口が苦いわ。


 口だけじゃない。…………心もだ。



 セオドア様が孤児院から赤ん坊を連れて来たと聞いた。大方お母様が連れていくと決めたのだろう。真面目で優しいセオドア様はそれに応えて連れて来た。話ではセオドア様以外に触れさせないと聞いている。



 となると___その子供は自然とセオドア様の近くに置くこととなる。



 それはいい。けれど。



 ____わたくしは、近づいてならない。



 何故ならわたくしの手は、わたくしの姿は……血にまみれている。



 何も知らぬ未だ穢れを知らない綺麗な命に触れるどころか視界にはいることすら許されない生き物なのだ。




 寂しい。とても寂しい。

 セオドア様と会えないのは物凄く、それこそ心が張り裂ける思いをしている。甘いキスがしたい。甘くとろける時間を過ごしたい。



 けれど___わたくしの存在のせいで、セオドア様の貴きお仕事を穢したくなかった。邪魔したくなかった。



 だから、我慢をすることにしたのだ。





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