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侍女の会話

 




 突然の言葉。鼓膜は揺れるけれど、何を言われているのかわからなかった。



 だって、結婚してから夜共に居なかったことなどない。アミィール様が倒れたときでさえ俺はそばにいた。



 それに、アミィール様はどんなに忙しくてもちゃんと俺の元へ帰ってきてた。なのに、なんで?




 アミィール様が別室で過ごす、そう思うだけで寂しくて心が張り裂けそうなセオドアは、震えた声で聞く。




 「な、なぜ…………?」




 「………………申し訳ございません」




 エンダーは粛々と頭を下げているだけに留まる。納得なんて出来ない。セオドアは寝てしまった赤ん坊にゲップをさせてから寝かせ、立ち上がる。そして、アミィールやラフェエルがセオドアに、と用意した金庫からお金の束を取り出し、その上でエンダーに聞く。




 「…………理由を教えてくれ。臨時収入は渡す」





 「…………いいえ、そのお金はあなたのものです」





 珍しくお金に食いつかないエンダーに只事じゃないものを感じ取る。今にも泣きそうなセオドアを見て、エンダーは『しかし』と言葉を発した。




 「わたくしはおしゃべりなので、今からレイ様とお話しましょう」




 「え?」




 突然そう宣言して、レイに近寄る。レイも不思議そうな顔をしているが、エンダーは俺にも聞こえるように大きな声で言った。




 「聞いてください、レイ様。わたくしの主人のずぼら皇女はヘタレなのです。


 セオドア様が赤ん坊を連れて来たと聞いて、自分はセオドア様に近づけないと戒め始めたのです」




 「は?」




 ヨウが理由……………?疑問に思うが、エンダーは俺を1度も見ない。それを見ていたレイは友が知りたいことを同じように大きな声を出して代わりに聞く。




 「何故ですか?アミィール様はセオドア様と離れることなど不可能ではないですか」



 「ええ。わたくしもそう思いますわ。けれども赤ん坊は触れられない、見られてはならない、と申しておるのです」




 「アミィール様は子供が苦手なのでしょうか?」



 「そうではありません。それもあるのかもしれませんが、大きな理由は____『ご自分が穢れているから』でしょうね」




 「そんなっ…………」





 そこで、黙って聞いてたセオドアは声を出した。自分が穢れている、それはアミィール様が常々言っていることだ。そう思うのは知っているけれど、子供に触れられない程だとは思わなかった。勿論、アミィール様の御手が穢れていることなどない。




 そんなセオドアの心を読んだエンダーはやっとセオドアを見た。美しい、機械のような顔を少し歪めて言う。





 「…………アミィール様の御手は穢れているのは確かなのです。それはアミィール様がいちばんよく知っております。



 けれど、わたくしは____あのずぼらに、この機会を通して子供に触れる事を覚えて欲しいのです。その哀れなほど穢れた御手に、武器ではなく小さな命を抱かせてあげたいのです。


 皇女で世継ぎを産むこともですが、それ以上に一人の女として____避けては通れない道なので」



 「…………ッ」




 そういったエンダーは目を伏せていた。………俺はどうやら、この侍女を誤解していたようだ。利害関係のみの関係だと思っていたが、彼女は彼女なりに主人を敬って、愛しておられるのだ。



 とはいえ、そう意固地になったアミィール様が素直に会うとは思えない。意地でもそれを通すだろう。そんなの………寂しすぎる。ヨウを無下にしたくはないけれど、昼間会えないだけでもこんなに寂しいのに、1週間も離れられるわけがない。



 どうすれば御心を開いてくれるだろうか……




 そう悩み始めるセオドアに、『これは独り言ですが』とエンダーは言う。



 「今日は執務室に篭ると言って篭っております。そして、この時間は偶然にもアミィール様の休憩時間です」



 「……………!では!」



 「ええ。お目通りできます。………わたくしはレイ様と仕事をさぼり、お話を楽しみたいので今は一人でいるでしょうね」



 「ッ、いってくる」



 セオドアはそれを聞くなりヨウを抱いて部屋を飛び出してしまった。













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