キスで浄化して
「…………ひっく、うぐ………」
セオドアは自室にて1人、泣いていた。枕を抱きしめている手には____水の精霊、太陽神、聖の精霊の契約印がキラキラとそれぞれの光を出している。綺麗な契約印を見る度にセオドアの緑の瞳からは涙が零れる。
……俺はまた穢れてしまった……しかも、今回はアミィール様のいない所で……俺はとんだ浮気野郎だ……不貞な輩だ……アミィール様がまた傷ついてしまう……泣いてしまうかもしれない……
聖女しか貰えないという聖の契約印を、他国の皇配が貰うというのはとても誉高い筈なのに、セオドアにはそんなことよりも唇を奪われた事が重大案件なのだ。
「……俺、もうアミィール様の傍に居ちゃ、いけないのかな……いやだ、嫌だよ……」
「____どうしてですか?」
「俺がまた男とキスした____って、アミィ!?」
ベッドから飛び起きると____アミィールが泣きそうな顔で立っていて。セオドアは咄嗟に手を後ろに回した。そして、ポロポロと涙を零しながら、か細い声で言う。
「アミィ………俺は………俺は最低なんだ…………」
「…………セオ様、その隠した御手をどうかお見せ下さい」
「ダメです……俺の穢らわしい罪を貴方に見せたくない、です……」
この光景を見られてもう隠せない、と分かっているけれど……それでも、愛している御方に素直に見せることなど出来ない。こんな不貞な俺はアミィール様の夫であることなど許され____
「っん」
セオドアがそこまで考えた所で、アミィールの細い小さな両手が顔を優しく持ち上げ、唇を重ねた。
アミィール様の今日のキスは、触れるだけじゃない。だからといって深い訳でも無い。唇を重ね、呼吸の合間に俺の唇に舌を這わせ、まるで飴を舐めるように自分の唾液を付けるようにして、また唇を重ねる。
丁寧にそれを繰り返されてから、銀の糸を引いて………唇が離れた。アミィール様は俺に熱い視線を向ける。
「____セオ様。そのキスは自分からしたのですか?」
「い、いや、フラン様に………………」
「でしたら____セオ様が悪い訳ではありません。
セオ様にキスさせたフラン様が悪いのです。確かに、セオ様がわたくし以外と唇を重ねるのは嫌です。
_____ですが」
「ッ」
アミィールは1度言葉を切り、セオドアの涙の跡を未だ流れている涙と共に舐めとってから、優しい笑みを浮かべた。
「_____仮にセオ様が穢れたとしても、わたくしは貴方を愛します」
「____ッ、アミィ」
セオドアはその笑みを見て、顔を赤らめながらぎゅう、と抱き締めてまた泣いた。
この人は本当に、イケメン過ぎるんだ。誰よりも、何よりもかっこよくて、優しくて…………どんなに俺が醜態を晒しても、穢れても愛してくれているんだ。
今度は嬉しくて泣くセオドアをアミィールは抱き締め返しながら、背中を優しく撫でる。その顔は幸せと言わんばかりだ。
____セオドア様は、どんなに穢れてもセオドア様ですもん。後からフラン様には秘密裏に痛めつけましょう。ついでにカーバンクル様も。
それよりも。
アミィールはそこまで考えて、セオドアの耳元で甘く囁く。
「セオ様。……………わたくし、セオ様に沢山愛されたいです。
____わたくしを、今から愛してくれませんか?」
「ッ………ああ、アミィ、俺のこの穢れを癒してくれる貴方が欲しい」
セオドアはそう言って、押し倒して貪るようにキスをした。自分の穢れをアミィールの甘さで払うように、念入りに、何度も唇を交わしながら愛する人の全てを愛でた。




