それは精緻な刷り込み
フラン様は、俺の心を見抜いたように口を開いた。俺ってそんなにわかりやすい………なんて、考えている場合じゃない!
「は、話などしていません!ダーインスレイヴ様の御心を知っているわけでは………」
「ふふっ、嘘が下手ね。…………いいのよ、私、ちゃんとわかっているの。
____ダーインスレイヴ様の御心を」
「…………?」
フラン様はそう言ってくるり、俺に背を向けた。両手を後ろで組んで、歌うように言葉を発する。
「____ダーインスレイヴ様は、20年前私に"お前はしっかりヒロインだよ"って言ってくれたの。あの時に私はダーインスレイヴ様に心を奪われた。
ヒロインとしてくっつくべきだと思っていたラフェエル様でも、私をアルティア先輩の手から救ってくれたガーランド様とも違う感情。それが本当の"好き"だという気持ちだと気づくのはそう難しいことじゃなかった。
……………前世で、沢山、たくさんの小説や乙女ゲームを見たり、やってみたりしたからね。
素敵だと思うわ、幽霊をここまで好きになれるなんて。幽霊キャラやダンディキャラは趣味じゃなかったけれど、それでも好きになった。
____でも、でもね」
フラン様はそこまで言って再び俺を見た。その顔には___満面の笑みがあった。
「____私、ダーインスレイヴ様の負担には、なりたくないの。だから、今の関係でいいと思ってるの」
「………ッ、な、で………そんなこと、言うんですか……そんなの、悲しすぎッ……」
俺はちゃんと動かない口を無理やり動かして言葉を紡ぐ。けれども、フラン様は胸に手を置いて、首を振った。
「…………ダーインスレイヴ様のことを、旅で知った。たくさん、たくさんの死を見守ってきた方だって。そこに私が入ったら、さらに悲しい心になっちゃうでしょう?
だから」
フラン様は目を開けて空を見上げながら、独り言のように呟いた。
「____結ばれるのは、望んでないの。
そりゃあ、乙女展開としては結ばれてハッピーエンドは好きだけど。憧れもするけれど。…………でも、好きな人の重荷にはなりたくない、って気持ちをこの身体になって知ったから。
それでも、好きな事を我慢したくない。この身体に生まれて、我慢しないって決めてたから。
だから____決めたんだ」
フラン様は空を見上げながら大きく息を吸って___空に向かって、大声で言った。
「私はッ!この身体が朽ちてもッ!ダーインスレイヴ様の御心に居続ける為に!
何度も愛を囁くんだーーーー!」
「っう………!」
キィン、と鼓膜を突き破るような甲高い声。思わず耳を塞いだ。でも、目は逸らさなかった。
フラン様は____これ以上ないくらい満面の笑みで、そう言い切ったのだ。
心に居続ける、って……………?
呆然としながら耳を塞いでいるセオドアに聞こえるように、フランはやっぱり大声で言う。
「私が好き好き好き好き言い続けてたら、私が死んだ後でも!『こんな女が居たなぁ』って思い出して貰えるでしょう?それって!つまり!死んでないじゃない!
私は、この身体では結ばれない。けど!心の中で私たちは結ばれる!
私の幸せは!私が掴み取るの!」
「…………………」
セオドアは、耳を塞いでいる手をだらん、とぶら下げた。
なんで…………なんで、こんなに強い人ばかりなのだろう。
フラン様は俺のように絶望なんてしていなかった。それどころか、ダーインスレイヴ様の御心を知った上で、それでも愛を囁き続け、自分の存在を忘れさせないようにしている。
こんなの……………泣くな、という方が無理だ。勿論俺の目から涙が流れるのは当然で。目が痛いのに、いくら流しても枯れない涙に嫌気がさす。
一方、フラン様は泣きもせず、それどころか終始笑顔だった。




