聖女は恋をしている
「きゃー!今日も可愛いわー!
セオドアくん……じゃなくて、セアちゃん!」
「………ひっく………」
季節を忘れて咲き誇るひまわり畑、今日も今日とてセオドアは泣いていた。
勿論こんな所でグズグズと泣く理由はひとつ。
この_____悪ノリ女性陣のせいだ。
セオドア_大きな赤いリボンを頭に着け、控えめな化粧を施され、フリフリ満載の赤いドレスを着せられている_は目の前を見た。
そこには、サクリファイス大帝国の皇妃であり、自分の義母であるアルティア=ワールド=サクリファイスとセイレーン皇国の聖女であり皇族の、フラン・ダリ・ジュエルズ・セイレーンの姿が。片手にはやっぱりお酒を持っている。
この人達が集まるとお茶会ではなく飲み会になるのだ。嫌なことにフラン様は週に3回はセイレーン皇国から抜け出してきてはアルティア皇妃様と戯れている。で、俺も呼ばれるという負のスパイラルができている。
確かに、2人は悪い人ではない。明るく気さくで色々教えてくれたり、身分を振りかざすことも身分で誰かを貶めることもしない。だがしかし、俺への扱いは日に日に酷くなっている気がする。
「……っ、アルティア皇妃様、フラン様、お願いします、もうこのようなお戯れをおやめ下さい……」
「何言っているんですか!もう社交デビューもしたじゃないですか~!」
「うっ……………」
セオドアは涙を流しながら顔を真っ赤にする。そうなのだ。月に1回命令通りお茶会に参加し続けた結果、調子に乗ったこの奔放皇妃様と自由聖女様の計らいで、この前の社交パーティに無理矢理連れていかれた。勿論セアとして。色んな男に話しかけられ、ダンスを申し込まれ、身体に触れられて…………気持ち悪かった。
けど、その時もアミィール様が救ってくれた。しかしその結果、俺が『セオドア・リヴ・ライド・サクリファイス』であるとバレてしまい、社交界では有名になってしまった。
それでも『セア様と婚約したい』という貴族の男たちから手紙が来るのだ。俺本当にギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公だよな?これではギャルゲーというよりBLゲームである。
勿論その手紙を見て俺の妻であり次期皇帝のアミィール様が笑顔で破り捨てるのだが。俺が止めなければきっと男たちを殺していただろう。……それぐらい、愛されている実感はある。
それはともかく、この大人達と関わるとろくなことがないのだ。
「わ、私は何度も言いますが!男なのです!」
「いいじゃない性別なんて。細かい子ね~。可愛い子が女の子になるのは世の摂理よ?」
「それは暴論です!」
「怒った顔も可愛い~!」
……………このとおり、何も通じないのである。俺は泣くしかないんだ。泣きたくなくても自分の女装姿を見れば気持ち悪すぎて自然と涙が出る。
そんな淑やかに泣くセオドアを横目に、セオドアが作ったお菓子を食べながらアルティアが口を開いた。
「ていうかさ、フランはいつ結婚するわけ?」
「え?ダーインスレイヴ様が振り向いてくれたらですよ」
「ええ!?………っぐ」
突然の方向転換と突然の発言に思わず大きな声が出てしまった。すぐに自分の口を手で覆って考える。
フラン様って結婚してないのか!?この美しさで聖女なのに!?それにダーインスレイヴ様って……!?
ダーインスレイヴは乙女ゲーム『理想郷の王冠』の攻略対象でありサクリファイス大帝国皇族専用の魔剣だ。俺も最近使わせていただいている。その魔剣が振り向いてくれたらって………!?
グルグルと考えているセオドアに、アルティアはけたけたと笑いながら言う。
「セオドアくんも驚くよね~、このフラン、あのダーインスレイヴが好きなんだって」
「なんでですか!ダーインスレイヴ様はとても格好いいじゃないですか~、そう思いますよね?セアちゃん」
「あ、えと……………」
なんと答えれば正解なのかが分からない。ダーインスレイヴ様はとても不思議な人ではあるがイケメンだし悪い人ではない。けれども魔剣で幽霊だぞ?いや、『理想郷の王冠』での主要キャラとして作られているんだから女性受けはいいのだが!




