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全ては貴方のために

 



 「………………ん」



 目を開けると、わたくしはわたくしのベッドに居た。おかしい。いつもならセオドア様と……!




 「セオ様ッ!」




 アミィールは気絶する前の記憶を取り戻し、勢いよく起き上がった。その反動でくらり、と目眩がして倒れそうになるが___それを男らしい腕が制した。ふわり、と鼻腔を掠めたミントの香りに、見なくても誰だかわかった。




 「……………アミィ、おはよう」



 「ッ、せ、お様…………」



 恐る恐る見ると____優しい顔をしたセオドア様が居た。目を合わせられない。きっと、"代償"の事を知っている。



 …………見られたくなかった。

 わたくしの身体のことを、教えたくなかった。

 あんな所を見られて……わたくしはやはり、最低な女だ。決めたことをひとつも守れずにこの人を振り回してしまった。



 出会ったのが、声をかけたのが、間違「アミィ」___!




 アミィールの思考を止めたのは、セオドアのキスだった。優しく、触れるだけのキス。けれども、何度も何度も雨のように降らせる、そんなキス。



 言わなければならないのに、そのキスが邪魔をして、言葉を発せられない。



 …………まるで、話をさせないようにしているみたい。



 アミィールが体重を任せた所で、やっとキスの雨は止んだ。



 「っは、………セオ様?」


 「………………アミィ、俺、決めたんだ」



 「決めた…………?」



 首を傾げるアミィールの額に唇を寄せて、静かに、でもしっかりと口を動かした。



 「_____俺、もっと強くなる。もっと色々勉強する。


 アミィが………アミィが怖い事も辛い事も、全部俺がどうにかする。



 だから_____アミィ。改めて、俺と一緒に生きて?」




 「____ッ」



 ____セオ様は、顔を赤らめていない。


 ____目元は赤いけれど、それでもいつもの優しい笑顔で笑ってくれている。




 それを見たら、不思議と___涙が零れた。




 なんで?


 なんで、貴方はそんなにも優しいのですか?



 なんで、…………こんなに醜いわたくしを愛してくれるのですか?




 「ッ、う……………」




 アミィールはセオドアの腕の中で静かに泣いている。セオドアは自分の胸の中で静かに泣いている愛おしい人を優しく抱き締める。




 ______決めたんだ。



 _____誰でもない俺が、アミィール様の"呪い"も"代償"もどうにかする。



 ______それで。



 それで………この人と、これからもずっと生きていくんだ。




 そう決意して、アミィールの紅銀の髪に顔を埋めた。









 * * *





 「なあ、セオドア、何してんだ?」




 「……………………」




 セオドアの自室にて。セオドアの執事・レイは部屋に散らばった本の山を見ながら聞く。



 だが、セオドアは無視……いや、聞いていない。



 また何か熱中し始めたな…………

 この乙女男子は、1度何かをやると決めたらとことんやる。お菓子をやると決めたら延々とお菓子を作り出すし縫い物をすると決めたらそれこそドレスまで作る。いつもへたれでビビリなのだが変な所生真面目だから……難儀な性格である。




 「____おい、レイ」




 そんなことを考えていると、やっと乙女主人が口を開いた。声からして今茶化したらまじで怒るから執事の喋り方をしよう。



 「…………なんでしょうか、セオドア様」



 「人を傷つけない程度にそれとなく調べて欲しいことがある」



 「どのようなことをお調べすればよろしいでしょうか?」



 「______龍神の事。"世界最終日"の事。どんな些細なことでもいい。


 この国に居たという龍神にまつわることを」




 龍神。世界最終日。

 それはこの国…………いや、このユートピアで禁句とされている。それはもう徹底的に。誰も怯えて口を開かない禁句である。


 だからこそわかる。十中八九、この国___いや、サクリファイス皇族に纏わることだと。



 ………………セオドアは、本当にアミィール様だけでなくこの国ごと愛そうとしているんだな。



 そう感じとった執事は、仰々しく頭を下げた。



 「は、お任せ下さい、セオドア様」




 ………………さて、人を傷つけるなという命令だ。これは熟女を誑かし聞き出すしかないな。早速娼婦漁りでもするか。




 レイはそう思いながら本を片付けたのだった。






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