思い出の品々
「………………すぅ」
「…………………アミィ」
朝の日差しが差し込む中、目に隈を作ったセオドアは寝ているアミィールを優しく撫でた。
勿論、一睡もしていない。できる訳が無い。……………愛おしい人の事を、俺は何も知らなかったんだ。
アミィール様は龍神を『穢れた血』、『醜い姿』と常々言っていた。それは…………見た目とか、そういうものじゃない。
アミィール様は賢い人だから、自分の身体のことをきっとわかっている。もしかしたら、5日に1回の龍化は"代償"、"呪い"を防ぐ為のものだったのかもしれない。
それだけじゃなく、朝と夜、殆ど離れることをしなかったのも、執務を抜け出して会いに来てくれて居たのも、……忙しくても俺の元に居てくれたのも全部、『自分がいつどうなるかわからないから』だったのではないか?
それを俺は何も聞かず____見過ごしていたんだ。
アミィール様を好きだと。愛していると言っておきながら。
アミィール様を抱くだけ抱いておきながら。
俺は_____この人の苦しみを、何も理解していなかったんだ。
「____クソ」
こんなに自分を不甲斐ないと思うことはあるだろうか?………悲しくて悔しくて胸が焼けるように熱くなることはあるだろうか。
でも……………アミィール様は、いつも笑っていた。
自分の身体がどうなるかわからないのに、それでもいつも俺を含めた全員に笑みを向けていたんだ。
怖いはずなのに、苦しいはずなのに………それを口に出さず、いつだって何事も無いように振舞って、笑っていたんだ。
どれだけこの人は強いのだろう。
こんなに強くて悲しい女性は__初めてだ。
「______身体を拭いてあげよう」
これ以上考えたら、俺は俺を許せなくなる。そう思って動く。エンダーを呼ぶべきだろうが、今はアミィール様の部屋に誰もいれたくなかった。俺だけしかいない部屋にしたかった。
だって、アミィール様は俺の女だろう?
部屋には水場もあるし、タオルさえあれば俺が清拭することぐらいできる。
そう思ったセオドアは立ち上がり、1番手前のクローゼットに手を掛けた。………勝手に開けるのはよくないけれど、それよりも汗をかいているなら拭いた方がいいよ……………………な?
セオドアはアミィールのクローゼットを開けて、目を見開いた。
そのクローゼットには2枚の服と小さな箱しか入っていなかった。1枚は結婚式に着ていた俺の作ったウェディングドレス。
そして、もう1枚の服は_____まだ結婚も婚約もしていない、初めて話した位の頃に俺がボタンを直してあげた………ヴァリアース学園の制服だった。
どっ、と懐かしさが込み上げる。
震えた手で、小さな箱にも手を伸ばす。
箱には____スカーフ、ハンカチ、ティアラ、ベール、群青色のリボン………初めてあげたチョコブラウニーの袋まで。今まであげた俺のものが詰まっていた。
セオドアは立ち上がり、覚束無い足取りで別のクローゼットを開けて回る。
そのクローゼットの中には____俺がウェディングドレスの試作品として作った沢山の白いドレス。
それを見て、セオドアはその場に崩れ落ちた。その拍子に涙が落ちる。
_____アミィール様は、俺を凄く愛している。
それは常日頃から感じていた。
けれど。
アミィール様は…………俺が、俺が思っている以上に愛してくれていた。
「ッ、あぁ……うわぁぁっ……!」
俺は1人、蹲りながら声を上げて泣いた。
何も分かっていない俺を_____ここまで愛してくれていたんだ。
自分の体がどうなるかわからないのに。
辛いはずなのに、それでも………笑って、俺には何も言わず、隠して。それでも。
愛してくれていたんだ_____
セオドアはしばらくその場から動けなかった。




