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主人公は無力

 




 アミィール様は、いつだってかっこよく優しく、女々しくて自分から何かをすることが苦手な意気地無しの俺をリードしてくれていた。


 いつも俺には笑顔を向けて、沢山の愛をくれていた。俺の傍に居てくれて、励ましてくれたり守ってくれたり………数え切れない程様々な事をしてくれていた。



 けれど。



 俺は____アミィール様の苦しみを何も知らなくて。


 勝手に1人で浮かれて、この苦しみを理解すらしていなかった。




 何が、………何が皇配だ。何が夫だ。なにが____愛する人だ!




 セオドアは涙を流しながらも、それでも蹲るのをやめて、3人を見た。



 「それは____治らないのですか?

 なにかできることはないのですか?


 アミィ………アミィール様を救える方法は、ないんですかッ!」





 静かな部屋に、セオドアの叫びにも似た怒鳴り声が響く。アルティアはそれを聞いて……………静かに言う。



 「____根本的な解決は、この20年ずっと探している。けど、手がかりはない。



 けれど___抑圧する方法なら、ひとつある」





 「…………!ッ、それは!なんですか!?」




 「お前だよ、セオドア」




 「!」




 威厳がある声で、俺の名前を呼ばれた。

 入口に居たラフェエル皇帝様が、俺のそばまで来ていた。そして、俺の顎を持ち上げた。



 アミィール様と同じ紅銀色の髪、ルビーのような紅い瞳に俺の顔が映っている。アミィール様にどことなく似ている整った顔で、真剣に言った。




 「_____お前の"治癒血"なら、抑圧ができるんだ。


 発現した時を思い出せ。…………アルティアの発作は止まっただろう?」



 「____!」




 その言葉で思い出す。アルティア皇妃様も、アミィール様のように倒れていた。けれど、俺の血が落ちて、緑の光に包まれて____起きたんだ。



 そこまで思い出した所で、セオドアは自然と普段持ち歩いている短刀を手に取った。そして、手首を切ろうとするが…………その手をラフェエル皇帝様に掴まれた。




 「何するんですか!俺の血があれば!アミィール様は………!」



 「落ち着け。…………この程度なら、その必要は無い」



 「ふざけないでください!こんなに、苦しそうに…………ッ!」



 「………………セオドアくん。私達の娘の為に血を捧げてくれるのは嬉しい。


 けれど、それで傷ついてしまったら___アミィールが、傷つくわ」




 「………………ッ」





 アルティア皇妃様の言葉に、短刀を持つ手の力が抜ける。………………アミィール様はいつだって、俺の身体に傷があると泣くんだ。ほんの少し包丁で切っただけでも、泣く。………これで、自分のせいで切ったら、きっと悲しい顔をする。




 ……………けれど。




 「俺はッ……………アミィール様の夫です!


 妻の為に血を捧げず、何が夫ですか!



 __アミィール様が傷ついても、俺はやります」




 セオドアは全員を睨みつけて堂々と言ってのけた。その言葉に………3人は悲しげな顔をする。



 一番最初に動いたのは……………ラフェエルだった。




 「セオドア、手を出せ」



 「?……………ッ」




 言われるより先に手を取られ、針のような小さな刃物で親指を切られた。血が滲む。ラフェエル皇帝は俺を見て、静かに言った。



 「____お前の血は強力だ。一滴で効果があるだろう。親指ならアミィールだって気づかない。


 ………………お前が自分から傷ついたのではなく、私達が傷つけた。



 これならば、アミィールの怒りの矛先は私達に向く。____私達を悪者にしろ」



 「そんな……………!」



 「____これからこのような事があったら私に言え。自分から傷つくな。



 …………私の娘を、悲しませるな」





 「……………………」




 ラフェエル皇帝様の言葉に、セオドアはまた涙を流した。


 _____俺、結局守られている。大好きな人を守ることすら出来ていない。



 俺は_____無力だ。




  セオドアはそう思ってから、ラフェエルから離れてアミィールの元に戻る。血が滲んでいる親指で、愛らしいピンク色の唇に触れた。




 すると緑の光が発現する。ゆっくり、でもしっかりそれが全身に広がった。それを受けたアミィールの浅い呼吸が、深いものになって…………顔色が少しよくなった。



 それを見てから、アルティアはアミィールの額に触れる。



 「…………うん、抑圧されたみたい。


 けど、意識はまだ戻らないわね。この子は倒れると一日は起きないから」



 「…………一日…………」



 ぽつり、そう漏らすセオドアの背中に、ラフェエルは言った。



 「…………………セオドア、今日から一日、お前にはアミィールの世話を任せる」



 「…………!ありがとうございます!」




 ラフェエルの言葉にセオドアは勢いよく頭を下げた。
















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