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主人公は愛される

 







 「はあ……………………………」





 セオドアは自室にて、ソファに身体を沈めていた。もうすっかり夜だ。



 今の今まで、城門から『皇女夫婦が居ないこと』に騒然としていた国民達の相手をしていた。相手、というより一人一人に弁明をしていたのだ。"それは誤解だ"って言いすぎて口が痛い。



 とても嬉しいさ。ここまで愛されているんだぞ?他国出身で公爵家育ちの俺の心配までしてくれる人も多かった。しかし、『熱が出た』、『部屋から出てこない』、『不治の病になった』、『アミィール様と離婚すると国に帰る荷造りしてる』、『アミィール様と国を捨てて駆け落ちをした』、『子供ができなくて自ら皇配をお辞めになる』、挙句の果てには『若くしてお隠れになった』とまで言われていた。





 心配は素直に嬉しいのだが、噂がここまで来ればなんというか、恐ろしすぎる。2日いないだけで死人扱いだぞ?俺が城門に行ったら女性が何人か顔を赤らめて卒倒していた。死人が生きてたら驚くか……




 「……………いや、それは死人だからじゃないだろ。どれだけ鈍いんだお前は」




 「あたっ、………お前とうとうエンダーのように読心術が使えるようになったのか?」





 執事のレイはひとつの作業をするように、ポンコツな主人の頭を叩く。使用人のすることではないのにセオドアが怒らないのは、セオドア自身主従関係を徹底するのが苦手だというのもあるが、それ以上にこの執事を友だと認識しているからである。



 そんな友であるレイは呆れながら言う。






 「全部口から出てたことにさえ気づかないお前はやっぱりすごいよ」





 「う、……………それは…………意識して治す」



 「そうしろ。できないとは思うが。




 …………………………それより、ん」



 「……………?」




 思考を邪魔したレイが、俺に手を差し出してきた。意味がわからなくて首を傾げると掌を催促するように上下に振る。意味がわからなくて、とうとう聞いた。





 「なんだよ」




 「決まっているだろ、お土産をよこせ。シースクウェアなら蟹だよな?高級な真珠でもいいぞ。換金する」




 「……………………」




  ………………主人に土産を強請る執事は多分ユートピアを探してもこいつだけだ。



 そう思ったセオドアは、近くにあったティッシュ箱を手渡す………って。





 「なんでだよ!土産だろそこは!お前がいない間、俺は暇すぎて暇すぎて娼婦達と遊んでる時に"セオドア様は御子が作れない身体になった"って風潮することしか出来なかったんだぞ!」




 「なっ……………あの噂はお前だったのか!お前ふざけるなよな!



 そんな根も葉もない噂が広がったらアミィール様が傷つくだろ!」




 「最近やっと子種を植え付けることが出来るようになったからって調子に乗んなよウサギ野郎!」



 「ッ、な、なんだよ、そのウサギ野郎って!」

 






 「……………………万年発情期」





 「~ッ!俺はうさぎじゃない!」





 レイの言葉に真っ赤になって飛びかかるセオドア。城中に2人の大声が響くのはこの皇城では日常茶飯事で。それを聞いた使用人も兵士も皇帝夫婦も………もちろんアミィールの耳にも入って。





『いつもの日常が戻ってきたんだな』と安心させている事に気づかないセオドアは、このあともレイに『ウサギ野郎』と茶化され、バカにされ、抵抗虚しく最終的にソファの上でクッションを濡らしたのでした。






 「………………もう俺しばらくサクリファイス大帝国から出ない…………ぐずっ」





 「そうしろ、次はウサギ野郎だ、って広めてやるからな」



 「それ本当にやめろ!」













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